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甘い痛み



ネウロのしつこい拷問から漸く逃れられた休日。
久し振りの平穏に、心が安らぐ。
ついでに、食事は何にしようと、街中を歩いている、と。
目の前に、ぼんやりと歩みを進める姿を見つけた。


(あ、笹塚さん)


手を振り、呼びかけようとして、止める。
あの人の痛みを知っているからだろうか。
それとも、自分の痛みを知られているからだろうか。
すべてを見ないことにしたかった、幼い自分が、呼びかけを止める。


(心が痛い)


これは、ネウロに抱く想いとは違う。
彼には、きっと理解できない想いだ。
ヒトとしての想い。
心の触れ合いによって生まれる、想いだ。


「あれ、弥子ちゃん」
「あ、笹塚さん…お散歩ですか」


内心を隠し、笑みを浮かべる。
振り返った彼は、いつものようにくたびれたスーツ。
そして、口には火のついた煙草。
軽く挙げられた手も、眼差しも、自分に向けられている。


(私だけに)


「いや、休みだけど、落ち着かなくて…」
「そう、ですか」


誰が想像できるだろう。
この、どこか大人しい印象の強い彼が、実はとても、凄いのだということに。


(動きも早いし、銃も使えるし…刑事さんって言うよりも…)


ふと、思ってしまう。
もし自分が、女子高生探偵などという肩書きを持たず。
普通の女子高生であったならば。
こうして、街中ですれ違っても、声はかけてもらえなかっただろう。


(そういう意味だけでは、ネウロに感謝、かな)


きっと、ネウロは眉を顰めるだろうけれど。
ただの、父親を殺された女子高生としてではなくて。
もしかしたら、彼の役に立つことのできる存在。
もしかしたら、そういう存在に、なれているだろうか。


「弥子ちゃん?」
「い、いえ、何でも! あ、戻らなくちゃ。…失礼します」
「あ、あぁ…また」


(また…って言ってくれた)


些細なそんな言葉が嬉しい。
名残は惜しいけれど、そろそろ嫌な空気が漂い始めた。
せっかくの休日だけれど、嬉しいことばかりではない。


(…メールだ)


「…やっぱり」


今すぐ事務所に来るようにとの簡潔な内容に眩暈を覚える。
ストラップ代わりのあかねが気遣わしげに震えるのを見、心が和む。
きっとこれからも、この距離は変わらない。
自分が、変わらないから。
それでもいつか、この甘い痛みが、伝わればいいと。


(…無理かな)


そういうところも、よいのだけれど。
だからいつまでもこのままでいたいと、思ってしまうのだけれど。


(まぁ、仕方がないか)


足取りも軽く、事務所へと戻る。
また、こうして逢える日を待ち望んで。


(あ、でも事件はイヤかも…)


遭遇する確率が高い理由のトップに輝くのは、事件で。
それは必ずしも嬉しいことではなくて。
それでも、それでも。


(逢えるのは、嬉しいから)


それだけですべてが赦せてしまうのは。
この、想いが大切だから。



【Fin.】


後書代わりの戯言


初、笹ヤコです!
正確には笹塚←ヤコです
でも、笹塚さんのイメージが…イメージが…(泣)
次は頑張らせて頂きます

いざ、リベンジ…!


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追記
この作品を書いた頃、本誌であんなことになろうとは夢にも思っていませんでした…
一時は、ジャンル追加を諦めようかと思いましたが、
大好きな方から励ましのお言葉を頂き、頑張る決意が芽生えました
…来年の公開時に連載終わっていたらどうしようかと
現在はソレだけが心配です…


よろしければ、ご感想などいただけましたら幸いですv


web clap


2008/10/02 Wrote
2008/11/23 加筆修正
2009/01/01 UP




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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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