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やわらかな願い



人は誰でも
生きて、死ぬのだ



Side:Ginntoki



夢を、見ていた。
多分、忘れてしまいたいほどの他愛ない。
それでも、忘れることの出来ない、鋭い痛みを伴った。
遠い過去の、幻を見た。


「夢見が悪ぃ…」


ぼんやりと呟くも、応えは返らない。
当然のことだ。
今のこの場所には、誰もいないのだ。


(たくさんの仲間が死んでいった)
(仲間だと、思っていた)


万事屋としての、出逢いと再会。
嬉しい再会ではなかった。
けれど、再会したくなかったわけでもなかった。
あの戦乱を潜り抜け、生きていてくれたことに、単純に感謝をした。


(なにに、対して)


背中を預けられる間柄など、そうそうない。
そんな相手。


(桂)


狂乱の、貴公子。
いつだって、安心して背中を預けることができた。
どれだけ深紅を浴びても。
どれだけ汚れに塗れても。
それでも、そんなことを微塵にも感じさせなかった。


(俺には、俺の道がある)
(けれど桂、お前にもお前の道があるんだろう)


この先、交わることは恐らく無いだろう。
けれど、一瞬の接点が無いとは言えない。


(あぁ、そういえば)


懐かしい仲間との再会。
それ以外にも、出逢いが、あった。
江戸の治安を守る武装警察、真選組。
中でも鬼の副長として恐れられている、土方十四郎。


(瞳孔、開いてたけどな)


評判と異なり、意外にも人望に篤く。
仲間思いで。
何より、近藤勲を慕っている様子が伝わる。


(多分、似てるんだろうなぁ)


決して認めたくないけれど。
強さと優しさと。
あの頃の自分と重なる姿。
決定的な違いは、自分は仲間に支えられていることに気付いていなかった。
けれど彼は、自分の存在が、仲間によって支えられていることに気付いている。


「マヨラーのくせに」
「んだと、てめぇこそ、人のこと言えねぇだろうが」
「……?」


起き上がると、目の前には今まさに、思い出していた人物が立っていた。
その手に、不可解な物体を捧げて。


「…なんでいんの?」
「てめ…っ、忘れたとは言わせねぇぞ! ほらよ」


手渡されたのは、大量にマヨネーズのかかった、ある物体。
その瞬間、うたた寝をする前に交わした会話を思い出す。
あまり考えたくないが、これは恐らく、カツ丼のはずだ。


『多串君、悪いんだけどさぁ、カツ丼買ってくんないかなぁ』
『はぁ? なんで俺がてめぇにそんなことしなきゃなんねぇんだよ』
『ウチに来るんでしょう? ついでに頼むわ』
『…ちっ…』


で、結果がこれ。
彼が極度のマヨネーズ好きだということは認知していたつもりだけれど。


(お使い物までこれかよ)


溜息が、漏れてしまう。


「せっかくいい気分だったのに、マヨネーズで消された…」
「俺のせいか? 俺のせいなのかっ?」


(話が見えない)


溜息をもう一度漏らし、マヨネーズに浸されたカツ丼だった物体を机の上に放る。


「で、何の用でしょうか? まさか、真選組ともあろう存在が、万事屋なんか頼ることはしねぇよなぁ?」
「…個人的な依頼だ。頼みたいことがある」
「へぇ」


珍しいことがあるもんだ、と漸く意識がはっきりする。
神楽も新八もいない今、彼の話を聞けるのは自分だけだ。


「で、何があったの?」


夢は消えた。
あるのは、現実だけ。
それでいい。
痛みは痛みとして消えないけれど。
こうして目の前に現実があるのならば。
それで、いいのだ。




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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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