Index  Menu  Main  Novel(SAIYUKI)  Novel(WJ/GAME)  Novel(etc) 

白い月夜と黒い太陽



――最後の、言い訳をする



金属の擦れ合う音。
振り向けば、想像以上にお互いの距離が近かった。
それが、出逢い。


(なんつーか、物騒だよな)


いつも通り、事務所兼住居のソファに横たわる。
胸元には、楽しみにしていた週刊誌。
腕を伸ばせば届くテーブルの上には、好物の甘い飲み物。
空は青く澄み。
気温も秋の始まりで心地よく。
仕事の依頼の電話もなく。
煩い同居人も、アルバイトもおらず。
平和なこと、この上ない。
だから、かもしれない。
だからこうして、思い出してしまうのかもしれない。


(始めから、追う身と、追われる身)


決して、相容れることはないのかもしれない。
けれど、忘れることは、できない。
瞼を伏せれば、鮮明に思い出すことができる。
危険な香りを孕んだ、空気。
鋭い視線。
隙のない姿勢。


(つい、本気になっちまう)


向けられる感情がまっすぐで。
懐かしくて。
いつか、こんな風にまっすぐに感情をぶつけたことがあると。
青年を見ていると、そんな昔のことまで思い出されて。
だからこそ、遠く離れてしまった自分がかなしくて。


(もう、戻れない)


月が太陽を追うように。
暗闇が昼間を慕うように。
初めて逢ったときから。


(あんたのせいだ)


まっすぐに、向けられる感情と。
まっすぐに、向けられる視線と。
まっすぐすぎて、逃げようと思うこともできなくて。


(やるよ。追いついたらな)


青年が、自分のところまで届くことが出来るのならば。
心を。
存在を。
すべて、与えてもいい。



Back Next
7-mori eyelid (©) Midori Yuki
inserted by FC2 system