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漆黒の夢



雨が強く、体を痛めつけようとする。
地面に広がる紅を薄めようと、する。
片腕を失ってても、尚も存在感が失せないそれを、見つめる。
どこまでも大きな壁だと思っていた。
どこまでも超せないものだと。
けれど実際はこんなにも呆気なく。
容易く。


(肉塊)
(血潮)
(…絆)


地面に転がった傘を拾い上げようと、伸ばした手がふと、止まる。
肘まで赤く、染まる様に、軽い眩暈を覚える。
失血の為ではなく。
痛みの為でなく。
恐らくこれは、心の錯覚。
実の父を手にかけたという事実が、ほんの少しだけ、痛みを覚えさせる。
それが罪悪感からなのか、満足感からなのか。
混沌としていて、いくら目を凝らしても、見えやしない。


「…さすがに、きついや」


こちらもまったくの無傷なわけではない。
傷跡の幾つかは、痕になって残るだろう。
けれどそれを見ても、自分は何も思わないだろう。
彼は…残った痕に、痛みを覚えるのだろう。
彼と自分との違いは、絆を思う、差。
自分は躊躇わなかった。
彼は躊躇った。
それだけの差。


「アニ…キ…」


震える声。
服の裾を掴む小さな手。
涙を零すまいと、必死で堪える表情。


(…これも、夜兎)


この少女もまた、己の血に狂う時が来るのだろう。
その日を脅威とは感じない。
ただ、ほんの少しだけ、愉しみだと思う。
この少女がどんな表情で。
どんな風に狂うのか。
どんな血の色をしているのか。


(早く、大きくなれ)


振り返らず、歩みを進める。
雨が足跡を消していく。
傘が、自分の表情を隠してくれる。


(――神楽、同じ血を分かつ、者)


さぁ、試してみよう。
同じ腹から生まれ。
同じ親に育てられ。
こうして道を分かつ。
これから先のことは、誰にもわからない。
少女がどのように育っていくのかも。
自分がどうやって生きていくのかも。
それは、誰にもわからない。
だから、試してみよう。
次に出逢う時、その時、何を思うか。
どう行動をするか。


(待ってるよ、神楽)
(ずっとずっと、待っている)
(お前が、俺と同じ位置に来るまで)


歩みを止めず。
前を向いて。


――闇の中を、進む。



【Fin.】


後書代わりの戯言


初、神威話です
とっても暗くてイイ感じに書けました♪
この作品は、今回相互リンクを貼らせて頂くことになった、英水乃様へ捧げたものです
お互いの神威の見方…というのを観たくて、ちょっと、頑張ってみました!
いやぁ…痛いですね(笑)



宜しければ感想等頂ければ幸いです!


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2009/10/12 Wrote
2012/08/29 UP




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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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