「あ…ちぃ…」
蝉が喧しい。
空は濃く、青く。
手を伸ばせば、届きそうな白い雲。
(…アイツは…)
夏の陽気に、思い出す。
桃色の髪。
白い肌。
柔らかな肢体。
(笑ってやらァ)
無様に倒れているのなら。
自分の手ではない、他の手を待つのなら。
(有り得ねェだろが…)
いつも、心が凍る思いをしていた。
ここのところ騒がしい輩が増えてきて。
その都度、彼らがその中心にいることを後から聞きつけて。
(血を、流したのだろうか)
(傷を、負ったのだろうか)
(涙を、零したのだろうか)
その場にいられないということが、どれ程心に迫るか。
初めて、分かったような気がしていた。
(…情けねェ)
ふ、と視界が陰る気配を感じ、うっすらと瞼を開ける。
無表情に、佇む少女がひとり。
「随分と、辛気臭い顔してるアルネ」
「よぉ、チャイナ」
いつからか、この存在が自分の心を安らげることに気付いて。
あぁ、だから、自分は生きていられるのだと。
息を、していられるのだと。
(ぜってぇ言わねェ)
言えばきっと、奇妙な表情を浮かべるだろう。
そして、得意げな表情を浮かべるだろう。
けれど、瞳の奥の闇を、より一掃深めるのだろう。
(でかい傘と、透き通る白い肌)
それが、ある戦闘民族の特徴だと、知らない者はないだろう。
はっきりとそう言われたわけではないが、この少女がそうだ、と。
多分、初めて逢った時には、もう知っていた。
少女は、その風貌に似合わず、民族の血に忠実で。
戦いと、流される紅に囚われていて。
「どうしたィ、こんなところで」
いつも通り、を心がける。
少女の思いを知っているから。
繰り返される争いの中、決して喜びばかりを得ているわけではないと、知っているから。
流される血が多ければ多いほど、少女の心も深く傷付き。
同時に、優しさや温もりもまた、少女を深く傷付ける。
その事に気付いたのは…いつだったか。
(いつか、何処かへ行ってしまうのだろうねィ)
自分の手の届かないところへ。
言葉を交わすことも。
温もりを分け与えることも。
不可能になるほど、遠くへ。
(ぜってぇ、言わねェ…)
自分は、全てを覚えている。
一片も忘れることはない。
想いを残すのは、自分だけでいい。
だから、。
「散歩ネ。いつものことヨ。銀ちゃんと定春も一緒ネ」
「旦那、ね…」
せめて、自分といる時だけは、自分を見てほしい。
そう願うのは、我侭なのだろうか。
「いつものお前らしくないネ」
ぽつり、と呟かれた言葉を確かめたくても、もう少女は背を向けていた。
くるくると軽やかに傘を回し。
一歩ずつ、離れていく。
(この距離が、今の距離)
これ以上近くてもいけない。
これ以上遠くてもいけない。
起き上がり、一歩踏み出し、手を伸ばす。
それで届く距離。
(神楽、お前には、似合わない)
(俺はきっと、壊してしまう)
この距離を護る為なら、塗り潰してしまおう。
生まれた想い。
望んだ願い。
届きそうだった、光を。
――届きそうだった、光を。
【Fin.】
後書代わりの戯言
結構難産でした…。
痛いくらい切ない沖神を書こうと決意したのが一週間ほど前ですからね。
言葉を並べて、ぐるぐる考えているうちに…どうもイメージが混乱したらしく(苦笑)
最後には、某有名アニメ映画と某アニメのイメージになってしまいました…。
なので、本来使いたかった文章は別の作品に使用することになりました。
一粒で二度美味しい…違う、えっと、怪我の功名?
…違うな…リサイクル?(笑)
今回も、イメージの元となるイラストがあります。
【読書とジャンプ】を更新されている、むらきかずは様の描かれたイラストです。
こちらを見て頂けると、より一層愛が深まるのではないかと思います。
色付けをされたのは、伍霧芥様です。
むらきかずは様
読書とジャンプ
伍霧芥様
mist&mirage
宜しければ感想等頂ければ幸いです!
web clap
2009/08/15 Wrote
2009/08/16 UP
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