今でも、夢に見ることがある。
どんよりとした曇り空。
大勢の敵意。
噎せ返る酷い骸の臭い。
瞳に刺さる、灼熱の炎。
足元に広がる血の海。
背中を預ける仲間の呼吸。
誰もが、己の正義の為に刀を振るった、日々。
(自分で自分の命を絶てたら…こんなに楽なことは無い)
その弱さを見透かしたような、背中越しに聞こえた言葉に、らしくないほど激昂した。
それにアイツは気付いただろうか。
恐らく気付いているだろう。
自分が放った言葉は、アイツに言っているつもりでも、本当は自分自身に言い聞かせていたんだと。
賢いアイツが気付かないわけがない。
(…見たくなかった、だけだ)
ただ前だけを見つめて、走り抜けた日々。
後ろを振り返ることで、己の過ちに気付きたくなかっただけ。
己の愚かさを見たくなかっただけ。
いつだって自分は、あの骸の山から逃れられない。
いつまでも自分は、誰かの手を待って、待って…待つだけの。
(――臆病者)
ふと目を開けると、朝日が漸く辺りを照らす時刻だった。
差し込む光に、手を翳す。
夢は遠く。
どれだけ手を伸ばしても、もう届くことは無い。
けれど、苦々しい想いはいつまで経っても消えない。
「…いい天気だ」
苦笑混じりに呟く言葉を聞く者はいない。
振り返り、見下ろす視線の先には、昨夜の騒々しい宴の残骸が広がっている。
0時の時報と共に雨霰と降り注いだ祝いの言葉がくすぐったくて。
どこか現実とは思えなくて。
素っ気無い態度しか取れなかった。
申し訳ないと思う。
嬉しいと思う。
決して口に出しては言えないけれど。
絶対に言えないけれど。
こうして歳を重ねることができることに、感謝している。
『なぁ、銀時。お前は変わらないでいてくれ』
最早主役が誰なのかわからなくなるほど騒々しくなった部屋の中。
周囲の騒音に紛れて、ぽつり、とアイツが呟いた言葉。
どう返したらよいのかわからなくて。
『ばぁか』
それだけしか、返す言葉がなかった。
自分はいつだって、変われない。
あの日からずっと、後ろを振り返らずに。
ただ、前を向いて。
『…そうか』
一体いつ、客人たちが帰途に着いたのか記憶に無い。
うっすらと覚えているのは、誰もが皆笑顔を浮かべていたこと。
アイツでさえ。
『銀時、お前は恵まれているな』
その言葉をいつ聞いたのか。
夢うつつに聞いていた為に、それが現実だったのかさえわからない。
恵まれている、のだろう。
明日をも知れぬ身の上だった自分を、笑顔で祝ってくれる存在がいること。
それは、自分の存在が受け入れられているということ。
居場所がある、ということだ。
(俺は、ここに在る)
自分の存在意義を探り、迷い、惑い、彷徨った結果が此処ならば。
例えどんな闇が訪れようと。
決して、退かない。
(この剣の、切っ先)
(届いている範囲は)
(…俺の、護るモン、だ)
決意を胸に。
前だけを見据えて。
光を、追う。
「……っ」
その時、太陽の影に、懐かしい人の面影を見つけた気がした。
いつものように微笑んで。
そして、背を向けて。
(いつか、背負えるだろうか)
その日が来ることを、今では楽しみでさえある。
そう思えるようになったのも。
「あ、もうすぐ新八が来るじゃねぇか。やっべぇな…また煩えんだろーなぁ…」
部屋の惨状の原因の一端を担ったことを恐らく忘れているだろう少年を思い出す。
一緒に来るだろう少女は、恐らく覚えているだろうが、しらばっくれるだろう。
そして自分は少年を宥めながらも、少女と同じようにしらばっくれるだろう。
容易に想像がつく光景に、笑みが込み上げる。
「今日も、いい天気だ」
きっと今日も、いつもと変わらない、騒々しい一日が始まる。
【Fin.】
後書代わりの戯言
若干遅くなりましたが、銀さんのお誕生日おめでとうSSです
一応書いたのは、当日です(笑)
ここ何年も、誰かの誕生日を祝おうという心の余裕がなかったんですけどねぇ…
ほんの少しだけ、すこーしだけ、楽になったのかな
ということで、銀さん、お誕生日おめでとう!
今回も、イメージの元となるイラストがあります。
【読書とジャンプ】を更新されている、むらきかずは様の描かれたイラストです。
こちらを見て頂けると、より一層愛が深まるのではないかと思います。
むらきかずは様
読書とジャンプ
宜しければ感想等頂ければ幸いです!
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2009/10/10 Wrote
2009/10/10 UP
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