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桜夜風



傷を舐めあう為に
出逢った訳じゃない




改造AKUMAを先導に辿り着いた地は、日本と言う名の、異世界。
その地へ降り立った時、脳裏を過ぎったのは、今ここにはいない、懐かしい少年の声だった。


『きっと綺麗なんでしょうね』


鮮やかな記憶。
目を奪われる薄紅の光景に、彼の声を、思い出す。


あれは、リナリーの故郷へ足を踏み入れた頃。
舟の上で、空を見上げていた時。
日本へ向かうのだと知り、心が逸った。
それは、ブックマンとしての性か。
それとも、エクソシストとしての宿命か。
ぼんやりと景色を眺めていると、


『……も、見たのかな』


ぽつり、と続けた声はどこか寂しげで。
心はどこかへ置いてきてしまったような。
聞こえなかった名前が誰を示していたのか。
その場で問い質したくとも、雰囲気は拒絶をしていて。


(江戸の桜は、哀しみが凝ったモノ)


美しいモノを愛でる心は捨て切れなくて
けれど、その美しさは紛い物で。
どれほど目を引くモノであっても。
それは、ホンモノでは、なくて。
その姿は、目の前の少年によく似ていた。
AKUMAにもヒトにも、同じように心を傾けて。
自分の心は守らずにいて。


『誰が見ても同じさ…』


誰と見ても。
何処で見ても。
存在は変わらない。


『何処で見ても、ですか』
『そうさ』


どのような状況でも、その美しさと儚さは変わらない。


『そうだと、いいですね』


だとすれば、救われるのに、と小さく、小さく呟く声。
その響きに、ほんの少しだけ、心に漣が生まれた。
救われるのは、誰なのか。
心か、体か。
桜の存在が、誰かに救いをもたらすのならば。
なぜ、江戸に咲くのか。


『そんな風に言うと、俺たちみたいさ』
『桜が、ですか?』
『そう、エクソシストみたいさ』


同じ命ではあるけれど。
感情がある分、自分たちは哀しみを覚える。
繰り返し、繰り返される、命の上に。


『あぁ、綺麗だろうなぁ…』


他愛ない会話もいつか、時の流れに消える。
記憶の片隅に。
けれど、その記憶が、この花弁のように色付いて残るのならば。


それだけで、存在することが赦されたような気がするのだ。




【Fin.】



後書


なんとなく、ラビとアレンを。
お花見気分で(実際は見ていませんがι)。

そろそろちゃんと、アレンの長編もアップしないといけないんですよね。
割と好きなんですけど、今の精神状態では中々厳しい…。
が、頑張らねば!



2007/03/11 UP
2008/03/17 再UP




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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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