いつまでも漂っていた。
記憶の淵に。
感情の縁に。
届かない手を差し伸べて。
それでも、願っていた。
自分が、自分であることを。
「ラビ、どうかしたんですか」
一時の休息。
それは本当に久し振りのことで。
いつものように活字を追いながら、ぼんやりとソファに横になっていた。
「ラビ?」
「いや、なんでもないさ」
腹筋を使い、起き上がる。
まだ塞がっていない傷跡が軽く開く感覚を覚えるけれど、気にしない。
(痛みは記憶。記録するもんじゃないさ)
こうしてどれだけの事柄を誤魔化してきただろう。
同じようにAKUMA退治をする仲間も。
自分を見出した恩師も。
自分が消滅させてきたAKUMAたちも。
すべて、過去のこと。
記録するだけの、モノ。
「はい、どうぞ」
「どうしたのさ、アレン」
「いえ、病人には優しくしないといけませんからね」
言いながら、右手に持ったカップを差し出す。
それは、神に愛された側ではなく。
人として、その存在を忘れない為の。
「サンキュ」
彼ならば、この手をとってくれるだろうか。
悩み、惑い。
それでも選んでしまった、この手を。
(埒があかないさ)
掴むとすれば、どちらの手だろうか。
人の為の右手か。
神の為の左手か。
「空が遠いさ」
「綺麗ですね。ずっとこのままでいられたらよいのだけれど」
その声に、いつもなら感じないほんの少しの陰を感じる。
選ばれし者は、恐らくそれゆえに孤独で。
それ故に、呪縛されているのだろう。
自分のように。
「大丈夫さ」
何の根拠もなく呟いてみる。
振り向いた銀灰色の瞳が、不安に揺れるのを見つめる。
この瞳を知っている。
恐らく、エクソシストのほとんどがこの瞳を持っている。
期待と、不安と。
哀しみに満ちた、瞳。
「アレンは、信じていないんさ。教団が、諦めていないってこと」
「諦めていない…」
諦めることも。
投げ出すことも。
実はとても簡単で。
拾い上げる方がよほど難しくて。
自らが縛られているとわかっていても。
籠の鳥になりたがる、哀しいヒト。
(籠の鳥は籠から出られない)
外は、危険がたくさんあるから。
籠の中は、静かで何も事件は起きない。
だから、このまま目を瞑って。
「諦めとかじゃないんです。ただ、僕が…僕自身が…」
そう言って、苦しそうに胸元の薔薇十字を掴んだ。
神の、左手で。
まるで、赦しを請うように。
「平和であることを望んでいて、それでいて、不安になるんです」
彼は籠の鳥。
哀しい呪縛にとりつかれた、受難者。
そして自分は…。
(時間は、もうない、さ…)
そっと笑みを浮かべ、冷めてしまった紅茶に口をつけた。
それはほんの少し、薔薇の香りがした。
【Fin.】
後書
なんという、救いの無い話なんでしょうね…ι
おかしいなぁ。。。
ラビを書いていると、とても切ない気分になります
何故でしょうねぇ。。。
ところで、ラビ、という言葉は、「ユダヤ教に於いて宗教的指導者であり学者でもあるような存在」
を意味するらしいです(ウィキペディアによりますと)
彼の名前は彼自身が付けたものではないと仮定すると、
この言葉が選ばれた意味はとても深いのではないかと思うんですよね
そこから今回の話は思いついたのです、が。
あぁ、でもこのラビは「R」から始まっている。。。D灰は「L」ですよね
しまった。。。失敗ι
お借りしたお題サイトはこちらです
群青三メートル手前
鶯崎晴 様
http://uzu.egoism.jp/azurite/
ここのお題は本当に素敵ですよ!
創作意欲を掻き立てられますvv
2007/05/27 UP
2008/03/17 再UP
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