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In The Dark…side:A



独りの哀れな男が、いたのだ
闇の中に



囁く声は誰にも届かない。
誰よりも愛しく。
誰よりも憎い。
何故、存在したのか。
何故、この命は在るのか。


『愛している』


誰よりもこの言葉に縛られているのは、自分。
誰よりもこの言葉を憎んでいるのは、自分。
あぁ、聖なる色に縛られた団服が重い。


「アレン」


揺り起こされる。
ここは、どこだろう。
今自分は、どこにいるんだろう。


「…アレン?」


訝しげな声。
少し低い。
これは、いつもの彼の声で。
でも、いつもの彼の調子ではない。
無理を、させてしまっている。
もう少しだけ、このままでいたいのに。


『それを、理由にすればいい』


消失の理由を、そんな風に叩きつけたことがある。
その痛みは同じ物ではないのに。
同じように、扱ってしまった。
哀しい吸血鬼と、哀しいAKUMAの。
両方が生きていい理由なんてない。
存在しては、ならない。
吸血の民が、それだけで存在してはならないように。
奪う力のあるモノの存在が悲しみの象徴であるように。


(自分の生きる理由さえ明らかにならないのに)


おかしくて笑ってしまう。
肩を震わせると、アレン、と少しきつい声音が聞こえる。
あぁ、起きなくては。
目を、覚まさなければ。
両目を開けて。
世界を見つめて。
そうしてまた、闇に染まっていくのだ。


「もうすぐリナリー達と会えるさ」
「そうですね」


努めて平静に。
何事もなかったように。
いつまでも、同じようにいられるように。



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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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