Index  Menu  Main  Novel(SAIYUKI)  Novel(WJ/GAME)  Novel(etc) 

HEART STATION



約束なんていらない
言葉はいつか意味を変えるから
だから、お願い
何も気付かないで



町を彩る夕焼けの色は、思い出すのも辛いあの日を思い出させる。
それが嫌で、できるだけ外出するのを避けていたのに。


(どうして、今日に限って忘れるかなぁ…私って)


昼間に買い忘れたものを思い出して、町へ出る。
空は、それは鮮やかな茜色の空で。
まるでそれが、炎のようにも見えて。


『父さん! 母さん!!』


幼い声が、脳裏に蘇る。
優しい声と共に。


「おい」


人ごみに紛れてしゃがんでいると、忘れることの無い、声がした。
顔を上げると、懐かしい面影がそこにはあった。


「ユ、ウ…?」


見慣れない黒い装束に、刀を差して。
髪も背もずいぶん伸びていて。
けれど、何にも興味がなさそうな瞳は、変わらなくて。


「ユウ!」


嬉しくて、名前を呼ぶ。
その不機嫌そうな表情が本当に変わっていなくて。
それもまた、嬉しくて。


(泣きそう)


いつかまた、こうして逢える日を心待ちにしていた。
逢ったら、何を言おうかと悩んで。
それもまた、楽しみで。


「久しぶり、だね」
「あぁ」


あの頃は、何もかも、光に満ちていた。
未来は、自分たちの手の中にあるのだと信じて疑わなかった。
けれど…。


『逃げ、て…っ』
『ここは危ない!お前だけでも無事に…っ』
『母さんっ! 父さんっ!!』


蘇る記憶。
真紅の。
拭えない、血の香り。


「どうした、黙って」
「う、ううん、なんでもない」


(ユウは、知らない。だから、教えないほうがいい)


教えてしまえば、優しいこの幼馴染は、自分の力を奮ってしまうだろう。
私の為に。


「いつこの町に?」


歩きながら聞くと、意外な答えが返ってきた。
この町には今、AKUMAがいる、と。
あるモノを探している最中に、噂を聞きつけたと。


「そう、なんだ」
「お前こそ何故この町に」
「あ…うん、親が二人とも死んじゃってね、一人じゃ心細かったから、親戚のところに…」
「そうか」


家の前まで送ってもらって、なんとなく名残惜しくて。
そのまま去ろうとした彼を引き止めたくて。


「あ、あの、ユウ」


つい、声をかけてしまった。
振り返る表情はなんとも言えない表情で。
少しだけ、不安になった。


「いつまでいるの?」
「…AKUMAを倒すまでだ」


冷たい声。
背筋が凍る。
今、自分は、どんな表情をしているんだろう。
うまく、笑みを浮かべているだろうか。


(AKUMAを倒せば、ユウは去っていってしまう)


幼かった頃、突然消えた幼馴染み。
やっと逢えたと思ったら、また消えそうになる。
今度はいつ逢えるかなんて、確証はどこにもない。


「ユウは、エクソシスト、だもんね」
「…あぁ」


今度こそ振り返らずに、去っていく姿に、涙が零れる。
何もかも告げてしまえばよかったのだろうか。
あの日のことを、すべて。


(ごめんね、ユウ)


遠からず、また逢うだろう。
その時はきっと、すべてが終わるとき。


「あぁ…おなか、空いたなぁ」


ぽつり、呟く声は宙に消える。
誰にも届かず。
たった一人に向けて。



【Fin.】



後書


なんだか怖い話になってしまった模様
最初は普通に幼馴染み再会モノを書こうと試みたのですが(苦笑)
久々のDグレはこのような結果になりました
これは友人Yさんからのリクエストです
リクエストは、随時受け付けていますので、お気軽にどうぞ〜



2008/03/06 Wrote
2008/03/06 UP
2008/03/17 再UP



Back
7-mori eyelid (©) Midori Yuki
inserted by FC2 system