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薄紅の空 薄氷の雨



1.想ふ 涙



離れている間
自分を支えていたのは
あの鮮やかな紅



「恋、次…」


久方ぶりに目にした姿は、記憶にある青年のそれとは大きく異なっていた。
見上げるほどの背丈。
程よくついた筋肉。
刻まれた刺青。
大振りの斬魄刀。
すべてが、変わっていた。


(心が、痛い)


鮮やかな変貌と。
自分の不変とに。
心が痛くて痛くて。


(お前は、もう)


腕章がすべてを語る。
自分がそう在りたいと願った位置に、彼は居る。
そのことが、すべてを語る。


(私よりもずっと、遠くに)


かつて、共に野を駆けた姿は、そこにはない。
あるのはただ、冷たく、自分を征する瞳。


(それでも、恋次…)


零れる涙を、堪え切れなくても。
縋る一護の手を振り払っても。
降り頻る冷たい雨に身体を冷やしても。


(お前を忘れたことなど、ない)


忘れることなど出来なかった。
いつだって、自分を支えてくれたのは、鮮やかな紅。
学院での別れ以来一度も接することは無かったけれど。
それでも、想っていた。
元気でやっているだろうか。
仲間は出来ただろうか。
どの隊に配属されたのか。
危険な目には遭っていないだろうか。
怪我をしていないだろうか。
生きて、いるだろうかと。


(ずっと、願っていたのだ)


いつかまた、出逢えるようにと。
それは、こんな形ではなかったけれど。
それでも、それでも。


(嬉しいんだ、恋次…)


想うほどに、心が弱くなるように。
想うほどに、支えとなるように。
こうして、また、出逢えたことが、嬉しいと。


(もう、それだけでいい)


現世との繋がりを絶つ、扉の音を背に。
伏せた瞼の奥に、消えない紅を思い浮かべ。
歩みを進める自分の前には、想う姿が、まっすぐに前を見ていた。


(それでいい、恋次)


この先自分に待ち受ける運命がどのような残酷なものであっても。
それだけでもう、何もいらないと思うのだ。



【Fin.】



後書


[薄紅の空 薄氷の雨]の第一弾、恋ルキです
というか、寧ろ恋←ルキですね
あの場面、大好きなんですよ
(っていうか、ルキアの話を書くときは、好きな場面しか書いてない気がするι)
あぁぁ…続きが気になります!!


尚、こちらのお題はLike a Rose Like a Butterfly 様より頂きました


2008/05/28 Wrote
2008/07/26 UP



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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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