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流浪の薄荷



風のざわめく音に。
揺れる水面に。
夕刻の鮮やかな紅に。


「なァに、してんねん」
「…空が赤いなァ、思って」


振り返らずともわかる、幼い少女のまま時を止めたその声。
もう、どれほどの時を、ここで過ごしただろう。
今でも鮮明に覚えているのは、あの日の、心の闇。


(止めるには、殺すしかない)


詭弁であることはわかっていた。
けれど、それでも。
痛々しいほど、死へ向かう彼の姿を、もう見たくはなかったのだ。


(殺らなければ、殺られる)


ひよ里の迷いは、自分の迷い。
だからこそ、断ち切ることができた。
だからこそ、この少女に感謝している。


(自分も大概、弱いねんなァ…)


自分の弱さを見たくなかっただけ。
今思えば、あの一件にも彼らが関わっていたのだろう。
それはもう、疑いようの無い事実で。
そして彼が本当に狙うものが、自分の想像通りであるのだとすれば。


「やな感じや」


平穏であること。
心安らかにあること。
既にそれらは、自分にはそれは手の届かない夢と化した。


(長い長い時をかけて、彼らが願ったこと)


回りくどい方法で。
周囲を罠にかけて。
逃れられなくなるまで。
待って、待って。
待ち続けた、彼らの、心。


それは、願いを通り越して、既に執着。


(変化しない身体と心。負けたんは、どっちやろうな)


自分たちが去ってから、百余年。
時は動き出した。
あの時の風の冷たさが蘇る。
追われた者達が、再び邂逅する時は、近い。



【Fin.】



後書


平子短編第二段!(笑)
原作に沿った現世ver.で書いてみました!
ちょうど、先週・今週の本誌のことを思い出している平子。。。のつもりでしたが
何分関西弁がよくわからない為、似非になりました。。。orz


タイトルは、【capriccio】様から頂きました、『花しりとり』からの抜出です
最近、そんな使い方しかしていません。。。
というか、そういう使い方を許されるところしか使用していない、
と言ったほうが正しいかもしれません(苦笑)



2008/05/28 Wrote
2008/06/19 UP



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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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