2学期に入った。
毎日休み時間の度に、彼女は友人たちと廊下の端で旅行の計画を立てている。
こっちは旅行の間のシフトを考えて頭が痛いっていうのに。
その明るくて悩みの無い姿に、苛立ちが芽生える。
(学校じゃなければ)
きっと今頃、呼び出しているところだ。
けれど今は制服を来て、教室にいる。
周りには、自分に話しかける女のクラスメイトがいる。
(あぁ、うんざりだ)
「佐伯!」
ふと顔を上げると、ドアのところで針谷が手を振っていた。
途端、黄色い悲鳴が沸きあがる。
(なんなんだ、一体)
振られた手のひらの中に見えるのは、鍵。
あれはたぶん、音楽室の鍵だろう。
クラスメイトにはごめんね、と謝り、針谷の元へ急ぐ。
この場から離れられるのなら、理由はもうなんでもいい。
「――でね、行きたいお土産屋さんがあるんだけど」
「あんなぁ、京都言うたらお土産屋さんはぎょーさんあるんやで?」
「うん、だから、ここのあたりに行きたいの」
「この辺りなら…このお店がいいわよ。可愛いストラップが沢山売っているの」
「えっ、本当?」
「それなら私も知ってる。ホテルの近くだろ?」
「二人とも詳しいんだねぇ…」
「あ、あと、お土産屋さんなら、ここもいいですよ。ご当地のキャラクターグッズがあるんです」
「そうなの? うぅん、迷うなぁ…」
あぁ、彼女の声だ。
明るくて。
心が晴れていく。
「おい、佐伯…って、あれ…あそこにいるのって…」
(やばい)
「針谷、時間ないんだろう? 早く行こう」
「お、おぉ…」
腑に落ちないという表情を浮かべたままの針谷の背を押し、その場を離れる。
あのままあの場所にいたら、何を言われるかわからない。
(爆弾だ…)
起爆剤は彼女の手の中にある。
きっかけはほんの少しでいい。
それだけで、きっとこの想いは溢れてしまう。
(まだ、このままでいたいんだ)
何度も一緒に出かけた。
何度も無意識に触れられた。
何度も、触れたくなった。
それらすべてに、意味を求めたいのは、自分勝手だとよくわかっている。
だから、答えを知りたくなくて、誤魔化している。
(とりあえず、自由行動の時には声をかけよう)
少し卑怯かもしれないけれど、彼女には友人との約束を破ってもらおう。
どんな方法でも、もっと、一緒にいたいから。
あの声を、独り占めしたいから。
【Fin.】
後書代わりの戯言
この作品は、2008年10月6日から参加させて頂いていました、、
SHUKI管理人の朱夜紅華さまと
びたみん。管理人のカンナさまの企画に応募する為に書いた作品です
ちなみに、テーマは【秋】でした
大変楽しく書かせて頂きました
こんな素敵な機会を与えて下さって、ありがとうございます!!
2008/09/11 Wrote
2008/10/06 UP
2008/10/07 加筆修正
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