この想いは、痛くて苦しい。
たった一人にだけ向けられている。
けれど、知られてはいけない。
それはきっと相手を縛り付けてしまう。
(俺は身勝手だから)
知られてしまえば、一分の隙もなく手に入れたくなる。
もうどこにも行かないように。
誰にも、心を奪われないように。
知られないままなら、このままでいられる。
(誰だよ…こんなの選んだやつ)
繋いだ手の柔らかさ。
引き寄せた身体のしなやかさ。
感じる温もり。
ぼんやりしていると、硬い、床ではない、柔らかい感触。
「…いたっ」
「あ、ごめん」
学園祭はもう3日後に迫っている。
けれど、この場面だけが、未完成で。
(ごく一般的な男子高校生がダンスを踊ることができるわけがないだろう、普通)
「おかしいなぁ…佐伯君なら大丈夫だと思ったんだけど」
「…なんだよそれ」
微笑みながらもう一度、と促される。
それに自分は、逆らえない。
あの時も、そうだ。
同じように、逆らえない笑みを浮かべていた。
『ねぇ、放課後の練習時間だけじゃ足りないよ』
『そんなこと言ったって…どうするんだよ』
『ふふ、マスターにお願いして、閉店後の珊瑚礁のフロアで練習するのはどう?』
『おま…っ、ばかか』
思わず出掛かった手を、咄嗟に止める。
ここは、まだ学校だから。
自分は制服を着ていて。
大人しい、優等生を演じていて。
だから本当は二人きりで話しているこの状態も、望ましいことではないのだけれど。
(他のやつに取られるくらいなら、我慢する)
結果的に、自分は今、閉店後の珊瑚礁のフロアで、彼女の手を取っている。
彼女の望むままに。
雰囲気を出したいとねだる彼女の言う通り、店の明かりは消して。
大きな窓から入る月の光と、反射する海の光。
BGMはいつも耳にする波の音。
滑らかとは到底言い難いダンス。
けれど、何とか形になったことは、床に映る影が証明してくれる。
時々言葉を交わし。
時々お互いを見つめ合い。
今、この時だけは、二人きり。
(お前は、俺が考えていることを知ったら、どうするんだろうな)
もうこうして、手を取ってくれないかもしれない。
抱きしめようとすれば、逃げてしまうだろう。
声をかけても、微笑みはないだろう。
(それくらいなら)
この先の自分の道は決まっている。
もう少し大人になって。
もう少し心の余裕ができたら。
その時こそ、告げるんだろう。
(どうか、一緒に…)
だから今だけは、どうかこのまま。
何も望まないから。
一緒に、いさせて欲しい。
【Fin.】
後書代わりのご挨拶
この作品も、2008年10月6日から参加させて頂いていました、、
SHUKI管理人の朱夜紅華さまと
びたみん。管理人のカンナさまの企画に応募する為に書いた作品です
企画主様より、「ひとつといわず、二つでも三つでも…」とお言葉を頂きましたので、
更に調子に乗ってしまいました(笑)
今回のテーマは、【文化祭・学園演劇の巻】のその2です
この作品を書いている最中、全く別の作品に心を奪われてしまい、難航しました(遠い目)
けれど、ある女性歌手の曲を聴き、PVを見た瞬間、イメージが沸いたのです!
途中までできていたものをさっくりなくして、一から書き始めましたが…楽しかったです!
2008/09/20 Wrote
2008/10/06 UP
2008/10/07 加筆修正
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