この気持ちをなんと言い表せば良いのだろう。
些細な、ことだ。
手を振る姿。
微笑む唇。
光を映す瞳。
風に靡く髪。
翻る制服。
そんな全てが、目を、心を、惹く。
(心が、痛い)
どうしてこんなにも心が動かされるのか。
きっかけが何だったのかなんて、忘れてしまった。
ただ、気付いた時には、想いは生まれていた。
つまらない嫉妬をしてしまうほど、強く。
『あいつ、主役やるんだって?』
お節介が代名詞の針谷が耳打ちしてきたのは、ある放課後のこと。
それは、煩いほど返事を催促してくるクラスメイトの勧誘からやっと逃れた直後のことだった。
『…なんだって?』
『だーかーら、今年の文化祭の学園演劇、あいつが主役だって? …知らなかったのか?』
『……』
なんとなく、針谷だけが知っていることが苛立たしくて、沈黙を守る。
そんなことをしなくても、多分気付かれているだろうけれど。
『で、お前は? やんねぇの?』
『…何を』
『オウジサマ』
『……やんない』
『お、おい』
イライラする。
他人のことまで心配する彼の態度も。
ずっと一緒にいるのに、何も言わない彼女のことも。
まだ知らない、彼女の相手役をするだろう男のことも。
そして何より、自分のことが。
(針谷も心配性だよな)
まずなにより、自分のことを考えればよいものを。
彼にだって、大切なことはあるのだ。
それなのに。
ふと思い立ち、携帯電話を手に取る。
「…あぁ、ごめん。こんな時間に。今、大丈夫かな」
無理やり作った、よそいきの声。
たった数年で自然になるほど、身についてしまった仮面。
それを剥がしてくれたのは、彼女。
その存在がどれほど救いになったのか。
まだ、彼女は知らないだろう。
「うん、そうなんだ。やらないって言ったのに、ごめん。気が変わって…そう、頼むよ」
電話口の向こうで、学級委員の声が上擦るのがわかる。
助かるよ、佐伯君、だなんて、そんな感謝の言葉はいらない。
電話を切った後、苦笑が漏れる。
「助かる…か」
(むしろそれは、俺の台詞だ)
彼女の隣は、自分だけのもの。
彼女の手を取るのも、自分だけ。
舞台の上の仮の姿であっても。
愛の言葉を囁くのは…。
(…俺だけだ)
幼い頃の思い出に縛られているのかもしれない。
それを、美化しすぎているのかもしれない。
それでも、最後に彼女の手を取るのは、自分でありたいから。
(俺はきっと、ずるいんだ)
迷う姿を見られたくない反面。
全て見ていて欲しいとも思う。
「若者は人魚と出逢い、恋に落ちました…か」
人魚は彼女だ。
だから、若者は自分でありたい。
伝説は悲劇だけれど、決して、その結末の通りにはさせないから。
(――きっと見つけるよ)
それは必ず果たされる、約束――。
【Fin.】
後書代わりのご挨拶
この作品も、2008年10月6日から参加させて頂いていました、、
SHUKI管理人の朱夜紅華さまと
びたみん。管理人のカンナさまの企画に応募する為に書いた作品です
企画主様より、「ひとつといわず、二つでも三つでも…」という優しいお言葉を頂きましたので
遠慮なく、頑張ってみましたv
今回のテーマは、【文化祭・学園演劇の巻】です(笑)
実に久々に、この曲を視聴したところ、イメージが凄く湧いたんですね
「これはもう、瑛くんの曲!」という感じで(苦笑)
気に入って頂けると良いのですが。。。
2008/09/17 Wrote
2008/10/06 UP
2008/10/07 加筆修正
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