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†痛みの記憶†-鏡-



人の心は不透明
世界は不安定
けれどその永遠は愛しい



じゃあまた、と手を振る。
いつもの日常。
大学からの帰り道を、ゆっくりと歩いて行く。
時には寄り道もしながら。
彼の家の近くまで来て、軽く唇を触れ合わせる。
そうして別れを告げる。
彼はまだ彼を心配する保護者の庇護から逃れることは無理で。
彼が生を受けた頃から独りで在った自分とは違う。


(歯痒い)


手段は幾らでもある。
今は携帯電話もある。
合法的にも違法的にも、手段は有り余るほど存在する。
必要ならば、使えるものは幾らでもある。
二人の世界を作ることは、実はとても容易いのだ。


(でも哀しませたいわけじゃないから)


今は、我慢をする。
…振りをする。
彼が哀しむくらいなら。
自分が我慢をすればいい。
それで彼が平穏で在られるのならば。
何も起こらずに、心の平安を保てるのならば。
このままで、いい。
呪われたこの身に誘うつもりなど始めからないのだから。


(この世界はまるで鏡。なんでも映すけれど、酷く壊れやすい)


まるで、見えない人の心のように。
映らないものはないのに。
けれど、自分の姿は映さないのだ。
世界から拒絶されているように。


(だから、余計に愛しい。何よりも欲しくなる)


願ったことは些細なこと。
欲しい。
彼が、欲しい。
この腕の中に閉じ込めて。
そうして世界の終わりを探しに行くのだ。
二人だけの世界で。



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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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