Side:Goku
壁を作っていたのは、どちらだったのか
心の上でも
体の上でも
◇ ◆ ◇ ◆
彼が発つ日の前日。
無理を言って、逢う時間を作ってもらった。
久し振りに聴く声は、懐かしく。
気のせいだろうけれど、距離を、感じた。
「忙しいのにごめんな」
『いや、いい』
お互いの近況を話すことも無く。
感情をぶつけることもせず。
(もう、遅いのかな)
待ち合わせの場所で彼を待ちながら、手の中に収められた箱を見つめる。
甘いものが苦手な彼の為に選んだ、洋酒入りのミルクチョコだ。
「待ったか」
「うぅん、ぜんぜん」
言いながら、彼が遅れて来ることが珍しいと気付く。
「大丈夫、なのか?」
「あぁ。挨拶回りは終わったからな」
「そっか」
また、沈黙。
でも、諍いから生まれるものではないことを、きっと彼も気付いている。
この時間が、愛しくて。
手離せなくて。
心地いい。
「あ、そうだ。いまさら荷物増やすのもどうかと思ったんだけどさ」
これ、あげる、と差し出すと、彼は軽く目を見開いた。
気に入らなかったのだろうか、と少し手を引く、と。
「うわっ」
突然引き寄せられて、抱き締められた。
強いちからで。
少しの隙間も生まれないように。
「…俺さ、大丈夫だから。だから、いってらっしゃい」
この温もりと強さが証。
どれだけの距離が開いても。
心の距離は広がらない。
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