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月の聲、夏の音



気持ちが落ち着かないのは
夏が近いから




『ずっと、黙っていてごめんな』


そんな言葉が口をついて出た。


(俺はずるいから、黙っていても傍にいたかったんだ)


さすがにそこまでは言えなかったけれど、三蔵は何かを察したようだった。
あの日、久し振りに顔を合わせた夜。
久し振りに体を重ねた。
今まで何度も同じ行為を繰り返していたのに。
まるで、初めてのように、心も体も満たされていた。


『…三蔵』
『なんだ』
『好きだよ』


額の傷は、ずっと消えない。
それは、入院していたときに主治医から聞いた話だ。
記憶障害は直るかもしれないし、直らないかもしれない。
けれど、命が助かっただけでも奇跡だ。
そんな風に力説する言葉がなんだか哀しくて。
心が痛んだのが、昨日のことのようだ。


あの日から、色んな話をした。
空白の年月を埋めるように。
あの時、三蔵を引き取ったのは、光明。
自分の養い親の金蝉の叔父だったこと。
三蔵の両親は既に玄奘家の傍流で、既にいないこと。
孤児院に預けられた三蔵を引き取ったのは、光明に子供がいなかったから。
そして、玄奘家を継ぐ為に、やむなく名前を変えたこと。
去年の夏に逢ったのは、玄奘家の現在のトップで、三蔵の叔母だということ。
血の繋がりが無いと言ったのは本当で、ほとんど他人のようなものだということ。
自分が、金蝉に引き取られたのは、偶然ではなかったこと。
あの日、三蔵を驚かせる為だけに、存在を秘密にされていたこと。


(ほんっと、くだらないことが好きだったよなぁ…)


既に起こってしまったことに対して、もしも、はあり得ない。
それでも、願ってしまう。
もしも、あの時、別れなければ。
もしも、あの時、雪が降らなければ。
もしも、あの時、忘れていなければ。


きっと、自分たちは、違う道を進んでいたに違いない。


(でも、これだけは、はっきりしている)


もし、別れていなくても。
雪が降り続けていても。
全てを、覚えていたとしても。
彼が、自分にとって、一番大切で、一番特別な人間であることには変わりは無い。


(今年は、ちゃんと、行くから)


深まる夏の気配に、笑みが浮かぶ。
もう少しで、彼が来る。
珍しく自分のほうが早いから、きっと驚くだろう。
それが、今から楽しみでならない。


(早く、来ないかな)


そうしたら、夏休みの予定を立てよう。
今度は、ちゃんと再会の挨拶ができるように。
心から、それを望むから。



【Fin.】



後書


漸く、終わり、でしょうか?(何故疑問形・笑)
終わりましたね、本編は(苦笑)


最初に【月シリーズ】の話を書いたのは、5年も前のことです
あの頃は、番外編を何本か書いて、本編を3本くらい書いて終わり、と思っていたのですが
思っていた以上に、手間がかかりまして、こんなに長い時間をかけてしまいました
。。。思い入れがある分、なんだか淋しいですね(苦笑)
まぁ。。。長くかかりすぎて、以前に張っていたはずの伏線を忘れていたり、
何よりメモ帳を無くしたりしたのが痛いと言えば痛い出来事なんですけど、
本当に何が痛いって、読み返していて気付いたんですけど、
私、この二人が付き合うきっかけになった話を書いてないんですよっ
。。。読みたい方、いらっしゃいます?


ともあれ、今までシリーズ作品を掲載してくださったSCOOP BOYS様、
そして、長い間読んで下さった方々に、心からの御礼を。。。
本当に、ありがとうございます!!
これからもどうぞ、宜しくお願いしますっ♪



2007/07/31 Wrote
2007/11/08 UP
2008/03/14 再UP



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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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