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月凪



忘却は救い
絶望への
全ての色を失う前に
救いを、与えられること



1.


心が凪いでいく。
失った記憶を取り戻しても。
心も自分も変わらないと言うことに気づいて、笑ってしまう。


「八戒も優しいよなぁ…」


恐らくは、そんなところに惹かれたのだろう。
あの、優しい紅を纏う青年は。
戸惑うほどに優しいから。


(でも、三蔵は違うかもしれない)


あの優しさも、想いも、自分が記憶を失ってから与えられたもの。
本当のところなんて、わからない。


(本当に好きだよ)


大切すぎて、自分を見失いそうなほど。
彼なしでは、もう生きてはいけないほどに。


「三蔵…」


この先何があっても。
何を失っても。
彼だけは、失いたくない。
記憶なんて、何度失くしてもいい。
彼が、自分の傍にいてくれるのなら。


「痛い、なぁ…」


あの日、同じ時は二度と訪れないのだと知った。
繰り返される日常は、ある日突然非日常に犯される。
日常は、非日常があってこそ、その価値がある。


(同じ明日は来ない)


分かっていた筈だった。
白い部屋で目覚めた時に。




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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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