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一年華



空を見上げる
青空を見下ろす
いつか、また逢える日を願って




日当たりのよい、白い部屋。
その中央のベッドに横たわる彼の姿。
あちこちに巻かれている白い包帯が眩しい。
最後の別れから十数年が経過している。
こんな再会は、望んでいなかった。


今日からこの部屋が貴方の家ですよ、とその人は微笑んだ。
優しい雰囲気の人だと感じた。
そして、とても心の強い人だと感じた。
差し出された手を取るのに、躊躇いは無かった、と言えば嘘になる。
それでも自分に向けられた微笑に嘘はなく、本心で自分を受け入れようとしていたから。
だから、決めたのだ。
正直、殺風景な、あの白い家から離れる事が出来た事は嬉しい。
嬉しい反面、ここは遠すぎる。
彼から、遠すぎる。


「どうしました、三蔵」
「いえ、何でも…」


江流、という名前は、引き取られると同時に変えられた。
過去は引きずるべきではなく。
未来をこれから生きるのだからと。
偲ぶだけに留めるのならばと。
異は唱えなかった。
あろうはずが、ない。
あの家で自分が得たものは、無いに等しいからだ。


『こうりゅう』


いつも、自分の傍を離れなかった、幼い子ども。


『引っ越す…?』


純粋に、愛しいと感じていた。
傍にいるだけで、温かい気持ちになる事が出来た。
涙を見たのは、多分あれが初めてだっただろう。
だから、約束をした。
彼はまだ幼いから、忘れてしまうかもしれない。
分かっていても、何かを残したかった。


『忘れないで。待たなくてもいいから、忘れないで』


覚えていてくれるだろうか。
温かい、あの存在は。
もう逢えないかも知れないけれど。
自分は、決して忘れたりはしない、から。
そして、また逢える日を心から願って。


「…だれ…?」


有り得なかった、望まなかった未来に絶望しても。
再会を望まないわけにはいかない。
過去は偲ぶだけ。
未来は、これから築くもの。
ならば、彼とのこの出逢いも、意味があるのだろう。


「三蔵」
「さん…ぞう?」
「そうだ」


空を見上げ。
青空を希み。
いつか花開く日を夢見る、永遠の蕾。



【Fin.】



後書


三蔵様お誕生日おめでとう、な短編のつもりが
微妙に暗い内容に…ι
な、何故だろう…


尚、これは、お持ち帰り自由にします
します、が!白状しますと、『月シリーズ』の番外編です
必要でしたら簡単な粗筋も作ります
ご遠慮なく、仰ってください
ではまた!


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2008/03/14 再UP




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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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