その日は客足も悪くて。
しかも、物凄く寒い夜で。
雪まで降っていて。
もう、終わりかと思っていた頃、手を差し伸べてくれた人がいた。
その人に引き取られてから3年。
声変わりして、背が伸びて、髪も少し伸びた。
けれど、彼との距離はちっとも縮まらない。
「悟空」
呼びかけに対し、許される時間は数秒。
すぐに行かなければ、どんな罰が下されるか。
(もうこりごりだ)
以前、無視をしたわけではないけれど、結果的に無視をした時。
夜通し責められた挙句に、翌日も普通に生活することを義務付けられた。
あんな思いは二度としたくない。
「なんだよ」
「茶」
「…了解」
堅苦しい言葉も、姿勢も、もう慣れてしまった。
雨の日に、道端で座り込んでいた自分。
そこに、酔狂にも声を掛けてきた彼。
よくある夢物語だと、彼が実は大貴族の跡取りで、拾った相手と恋に落ちる展開だが。
(笑えねぇ)
彼は本当に、大貴族の跡取りで。
自分を、恋人のように抱いた。
(趣味おかしいんじゃないのかな)
お互い、どこからどう見ても男の性別をしているのに。
しかも、召使までやらせるし。
(正確には部屋付きの召使ってとこだけどさ)
ずっと路上の生活をしていたから、夜のこともよく知っていた。
暑さ、寒さを凌ぐ為に、一夜のベッドを望んだことは一度や二度ではない。
それが同性でなかったこともない。
彼に引き取られてから、何度も体を重ねた。
けれど、心が重なったと感じたことは、一度も無い。
どれだけ行為に熱中していても、口付けだけは、拒まれたから。
実際、好きでもない相手と関係を結ぶことは、そんなに簡単なことじゃない。
けれどそれは、自分が受身だからであって。
じゃあ、相手はどうなんだろう。
彼は、好意を抱いていない相手を簡単に抱くことができるんだろうか。
(わかんないなぁ…)
彼が、何を思って自分を誘ったのか。
どうして自分なのか。
彼は、何も言わない。
一度だけ、気になって聞いてみたことがある。
『三蔵さ、なんでこんなことすんの?』
『…わからないのか』
『わからないから聞いてるんだけど』
深い溜息の後、結局答えは返ってこないままで。
追求すればよかったのだろうけれど。
その時の彼の瞳が哀しそうで。
それ以上聞きだすことが出来なかった。
本当は、言葉に出さなくても伝わるものがある。
少なくとも嫌われてはいないことも。
けれど、女々しいかもしれないけれど。
(言葉にして欲しいって思うのは、贅沢、なんだろうか)
それだけ、彼を想う証拠なのだと。
心が痛むのも。
理由を求めるのも。
すべて、彼を深く、特別に想う為なのだと。
(今更、だけどさ)
「悟空」
「はいはい」
ゆっくりと、湯気の立つ紅茶を持っていく。
その先には、闇から救い上げてくれた人がいる。
同時に、自分を新たな絶望へと落とし込んだ人が。
(心まで欲しがるのは、欲張りだ)
だから今は、このままでいい。
いつか、心が通じればいい。
それまで傍にいられれば、それで、いい。
【Fin.】
後書
なんとなく、痛い三←空を書いてみたくて書いた作品
うん。。。うまくいった、かな(苦笑)
言うまでもなくパラレルですよぉ。。。
ちなみに続きはまったく考えていませんが
もし、リクエストがあれば考えないでもないかもしれないかもしれない。。。(苦笑)
あ、このタイトルですが、いつもの如く、【群青三メートル手前】さまより強奪したお題です
あぁ。。。やっぱり素敵ですvv
2007/07/25 Wrote
2008/03/11 再UP
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