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Weis Trauma



果たせなかった約束がある
それが何だったのかは忘れてしまったけれど
約束をしたことだけは、覚えている
名前を呼ぶことさえ赦されない、彼
大好きだったよ
大切だったよ
でも…さようなら




目覚めると、白い部屋。
あぁ、と思い出す。
ここは、部屋だ。
暗い洞窟ではない。
手足も軽い。
視界はどこまでも広く。
体を伸ばすことも苦痛ではなく。


「おい、起きたのか」


そして、この声。
この声が、記憶に漣を立てる。
捨て去った遠い記憶。
紅に染まった、あの日。


「さんぞー…だっけ」
「人の名前を気安く呼ぶんじゃねぇ」


名乗ったのは彼だったのに、おかしなことを言う。
呼びかける名前があるということ。
それが、どれほどの喜びを自分にもたらしたか。
彼はきっと、気付かないだろう。


「じゃあ、いいよ。なんて呼べばいい?」
「…」


ほら、すぐ黙ってしまう。
困っているのだろう、と容易に想像がつくけれど。
自分は、見かけ通りの存在では、ないのに。


(…面白い)


彼はまだ若いのだろう。
独りで生きてきたのだろう。
そうして、独りで生きていくのだろう。


(見届ける、かな)


彼を失ったように、彼を失いたくないから。
今度こそ、約束を守る為に。


「じゃあ、やっぱりさんぞーだ」
「妙な呼び方すんじゃねぇ!」


素手で叩かれる。
感じる痛みさえ、久し振りで。
なんだか嬉しいだなんて。


(怒るかな)


「じゃあ、…」
「三蔵、だ。ちゃんと呼べ」


ほら、優しい。
大丈夫。
今度は間違えない。
差し出された手を、二度と離さない。


「三蔵」


微かに緩んだ、彼の朝焼けの瞳が、懐かしい瞳と同じで。


(…さようなら)


いつか来る、その日まで。
この、白い世界にいる。
傷を癒さないまま。
そのままで。
護り続ける為に。



【Fin.】



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2008/03/11 再UP



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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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