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嘘のまま終われば良かったのに



そこに飾られたモノから目を逸らす
それは、忘れていた過去の産物




(思えば、ずっとうそつきだったよな)


遠い遠い昔に約束をしていた人は、今はもういない。
その代わりに現れたのは、彼の義理の息子だという人物だった。
青年が現れて改めて、彼は二度と、自分の前には現れないのだと知った。


『お前の生活は俺が保障する。だから、俺の傍にいろ』


彼の代わりに現れた青年は、そんな風に言葉を紡いで、自分の心を攫った。
同じ、金色の輝き。
けれど、異なる太陽の輝き。
彼が沈む陽の光ならば。
青年は昇る陽の光。


『悟空、何を考えているんだ』


彼の儚さを、哀しさを大切に想っていた。
けれど彼は、最期まで、信じてはくれなかったのだ。
いつも、自分を縛り。
何を考えているのか、何をしているのか。
事細かに話さなければならなかった。
彼だけだと。
彼のことだけを考え、彼のことだけを想っているのだと。
どれだけ言葉を重ねても。


(信じてくれなかったなぁ)


その挙句に、嘘をつかれた。


『すぐ戻るから、その手を離せ』


あの日、なんとなく嫌な予感がして。
出かけるのを留めた自分のそれを、どう思っていたのだろうか。
我侭だと、思われていたのだろうか。


『…うそ、つき』


白い部屋の白いベッドの上で彼は、二度と、その瞳を開くことは無かった。
青年が自分に手を差し伸べてくれなければ。
きっといつまでも、彼の傍らに座っていただろう。
それを、望んでいたから。


『いつまでも死んだ奴を想うな』


どこか苦しげに告げる青年の言葉の真意がわからなくて。
自分はずっと、耳を、目を、心を塞いでいた。


『悟空、俺は、傍にいる』
『…嘘だよ。無理に決まってる』
『俺は嘘はつかない。俺がお前の傍から離れるときは、一緒に連れて行く』


その言葉に、初めて青年の心を知った。
この青年は、自分を、とても大切に想ってくれているのだと。
彼は、自分を置いていった。
それが彼の優しさだった。
青年は、自分も連れて行くという。
それは、青年の優しさだろう。
それでも、思う。


(嘘でも、よかったのに)


ずっとつき続けてくれれば。
それが彼の優しさならば。
想いが正確に届くことはないとわかっていても。
その嘘に、包まれていたかった。


(ずっと、傍に…)


棚の上に飾られた写真を、手に取る。
たった一度だけ、二人で撮った写真。
青年はそれを飾ることを快く思ってはいないけれど。
それでも、忘れることができなくて。


(…いたかったよ…)


目を逸らしながら。
それでも、手に取る。
その繰り返し。


「悟空」


声と共に、背中から温もりが伝わる。
包み込むように伸ばされた手が優しくて。
その温かさに、涙が零れそうになる。


「約束、しただろう」
「うん、そうだね」


青年は、嘘はつかないと言った。
だから、自分はその言葉を信じる。
彼を、信じたように。


「信じてるよ、三蔵」


――彼を想うように、青年を想い始めたから。



【Fin.】



後書


これは、【意地始めました】の蒼様へ捧げます
何でかと言うと、ご飯を奢ってもらったからです!(をい)
その節は本当にありがとうございます…
きっと一生忘れません…(泣)


リクエストは確か、三空、でしたよね?
ち、違っていたらすみません…
煮るなり、焼くなり、ご自由になさってください


で、では!!


尚、お題は、【群青三メートル手前】様より頂きました



2008/05/25 Wrote
2008/05/28 UP



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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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