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桜道



なぁ、覚えてる?


…忘れるはずもない
あの胸の痛み
哀しみ
想う心
忘れられない…



自分から言い出したくせに、もう心が寂しくなっている。
なんて我侭なんだろう。
想いが憎しみに変わる前に。
それを彼にぶつけてしまう前に。


(…離れてしまいたかったのに)


『ごめんね、三蔵。俺、もう待つの疲れたよ』


そう告げて、彼からのすべての連絡手段を絶ったのは、その翌日のこと。
携帯も解約して、住所も変えて。
それから、彼との共通の友人にも口止めをして。
遠く離れた場所へ、居場所を決めた。


「あぁ…桜も終わるなぁ…」


降り続く雪から逃げるようにやってきた場所は、もう桜の花弁が散りかけていた。
誰も、知り合いのいない、場所。
ここでなら、ただ、彼を想うことができる。
何も待つこともなく。
苦しむこともなく。


(きれーだ)


空を見上げると、薄紅の嵐の向こうに、抜けるような青空があった。
それから、眩いばかりの、光。
何を見ても、何を聞いても、思い出してしまう。
涙が頬を伝うけれど、誰が見ているわけでもないのでそのままにしてしまう。
流す涙の分だけ、少しだけ、心が軽くなるような気がしたから。


「…お前は、そうやって一人で泣くんだな」


不意にかけられた声に、息が止まる。


(ありえない、よ…)


恐る恐る振り返ると、そこには、希望に満ちた朝焼けの瞳と、眩い光。
どれだけ離れても。
どれだけ歳月を重ねても。
忘れることなんて出来ない、強くつよく想う、彼の姿。


「なん…で」
「俺を誰だと思っているんだ」


その気になれば、人ひとり探すことなどわけもない。
膨大な財産と資産と、それからカリスマ性。
彼の周囲にはそんなものが満ちていて、だから近寄れなくて。


(だから、ただ、待っていた)


「来い、悟空」


差し出された手が、かすかに震えているのは、見間違いじゃない。
もしかしたら、言わなかっただけで、彼も不安だったのかもしれないと。


「三蔵…俺のこと、好き…?」


どうしてもあと一歩を踏み出せなくて、伸ばしかけた手を掴まれ、引き寄せられた。
耳元で囁かれた言葉に、新しい涙が溢れ出す。


「うん…俺も」


自由になった手を、彼の首に回す。
お互いの温もりがひとつになるように。
もう決して、離れることのないように。


この、春の陽射しのように。



――愛してる、ずっと




【Fin.】




後書代わりの戯言



実に久し振りの、三空です


この作品は、綺羅さん、ゆあらさまリクエストの、『粉雪』の続編になります
大変にお待たせをしてしまって本当にすみません(泣)
こ、この内容でしたらハッピーエンドですよね????


久し振りにちゃんとした三空が書けたかな、と自分では満足しておりますが、
皆様の反応が…気になります(苦笑)


それではまた…



よろしければ、ご感想などいただけましたら幸いですv


web clap



2009/04/27 Wrote
2009/04/27 UP




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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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