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誰かの願いが叶うころ



願いは、叶わないうちに
泡と消える
それが、世の理




いつだったか。
喉が痛くなるほど、声が枯れるほど。
何かを願ったことがある。
けれどそれは、叶うことがなく。
あぁ、願い事というのは、叶うことは無いのだと。
そう、思ってしまった。
それから何年も経つけれど、その思いは変わらない。
隣に彼がいてくれても。


「どこを見ている」
「…三蔵」


途端、頬を軽く染めて視線を逸らした彼の姿に心が痛む。
自分にはそんな価値は無い。
それほどまでに、好かれるような。
意味も存在もないのに。


(ごめんね)


彼が好きだ。
同性であることとか。
あの人の血縁であるとか。
そんな諸々を差し引いても。


(好きだよ)


『いつかお前も知るだろう。俺以上にお前に相応しい奴がいることに』


あぁ、そうだ。
あの人が言ったのだ。
相応しい人が、きっといると。
けれど自分は認めたくなくて。
力の全てを以って、彼を繋ぎとめたくて仕方がなかった。


(だから、不自然なことになった)


一つの躰に、二つの心。
彼の中には、あの人の魂と心が在る。


(気付いていないだろうけど)


自分だけは、知っている。
彼がどれだけ自分を想っていても。
それは、彼だけのものではない。


(自分の心さえわからないのに)


なんて、罪深い存在。
それでも、元に戻すには、自分はもう、彼をこの上もなく好きになっていて。


(ごめんね)


出逢わなければよかった。
そうすれば、こんな想い、抱かずに済んだのに。
あの人が、彼の中に転生していることなど、気付かずに済んだのに。


「三蔵」
「なんだ」
「…好きだよ」


二度と言えないかもしれない、言葉を紡ぐ。
笑みを浮かべて。
あぁ、綺麗に笑えているだろうか。
彼の記憶に残るくらい。
あの人の心に届くほど。



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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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