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自分のものだと言えたら



雨の音に負けてしまって。
声が聴こえない。
届かない。



「今日も、ですか」
「……八戒」


起きていたのか、と軽く驚く声。
あぁ、彼は、どうして。


「わりぃな」
「今日だけは、……いえ、なんでもありません」


どうしてもいてほしいと、お願いしてもですか、と言いかけて、止める。
意味がないことはしない主義なのだ。
損をしているかもしれないけれど。
彼の行動を止める権利は、こちらにはないのだから。


「八戒?」
「いってらっしゃい。雨が降りそうなので、傘を忘れないでくださいね」


微笑んで。
傘を差し出して。
あぁ、自分は、いつものように微笑みを浮かべているだろうか。
震える唇に気づかれていないだろうか。


「…あぁ」


傘を受け取る手に躊躇いは見えない。
そのまま背を向けて。
扉の向こうに消える姿に。
手を差し伸べようとして、止める。


(女々しい真似を)


どれくらいその場にいたか。
時計の針は、もうすぐ次の時を刻もうとしていた。
雨は本格的に降り出しており。
外の音も中の音も、うまく聴こえない。


「さて、洗い物を済ませて、それから…明日も雨だろうから、洗濯…」


独り言を言いかけた時、扉が開く気配がした。
振り返る前に、背中から温もりに包まれた。
薄く香る、煙草の匂い。
欲しかった、温もり。


「どうしましたか。さては、フラれましたね」
「いや…」


耳元で告げられた言葉に、息を飲む。


『今日、誕生日だろ』


目の前に差し出されたのは、薄い緑がかった、シルバーのイヤーカフス。
今自分がつけている妖力制御装置とは違う、普通の。


「どうしたんですか、これ、は」


震える言葉。
どうか、伝わらないでほしいと願っても。
これだけ密着していれば、難しいだろう。


「似合うかと思ってさ。誕生日おめでと」


お前に出逢えて、よかった。
囁かれた言葉に、溢れる涙。


「あ…りがとう、ございます…」


この想いが、伝わっているとは思わない。
この温もりも、彼の優しさだろう。
けれど、それでも。


(今だけは、彼は、僕のもの…)


願いは届かなくていいから。
どうか、暫くこのままでいさせてほしい。


【Fin.】



後書代わりの戯言


八戒さんのお誕生日が明日、ということなので
頑張って書いてみました!
2年以上前に書いた作品の続きなのですが(爆)
こ、これ単体でも大丈夫、です…はい。


八戒さん、お誕生日おめでとうございますです!!


お題はこちらから頂きました。


rewrite 様
http://lonelylion.nobody.jp/


宜しければ感想等頂ければ幸いです!
http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=shigukoi


2012/09/20 Wrote
2012/09/20 UP




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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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