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for real





Goku side



(あぁ、困ってるなぁ…)


いつもどおりの一日になるはずだった。
十年振りに再会した幼馴染みは、無愛想はそのままだった。
けれど、容姿はさらに磨きをかけ、人の目を充分に引く存在になっていて、焦りを覚
えた。
あの頃は、自分だけが、彼を追っていた。
向けられる視線に、それだけで心が満たされていて。
お互いがお互いだけを望んで、それが赦されていた。


(大人になるって、自由じゃない)


高校に入って、彼の姿を見つけた瞬間、夢が叶ったと思った。
子供のころには叶わなかったことが、これで叶えられると思った。


(ごめんね、三蔵)


半ば強引に、卑怯な手段を使って、彼の傍にいるのが自分であるということが日常で
あるようにした。
他にももちろん友人はいるけれど、彼は違う。
彼だけは、ほかの何も変えられない。


(でも、見ちゃったんだ)


彼の、下駄箱の中に入っていた一通の手紙。
真白な便せんに書かれていた、溢れる想い。


(彼は、おれのものだ)


酷くわがままで傲慢だと思う。
でも、これだけは譲れない。


『三蔵、カラオケ行こう!』


彼は自分の言葉に対して拒絶することは、基本的にはない。
だから、彼が逆らえないように、その腕をとった。
カラオケ、という言葉に難色は示していたけれど、そんなことは知らない。


(歌うことが目的じゃないんだけどな…)


苦笑が漏れる。
通された個室は、二人で入るには広くて。
でも、向い合せに座るととても狭くて。


(ちょうどいいや)


どうしても視線を合せてくれない彼の態度にほんの少し心が痛む。
彼の優しさは、彼が持ち合わせたもので。
自分だけに向けられるものではない。


(けれど、それではもう満足できないんだ)


無理やり頼んだ、このカラオケ店の定番のメニューが来てから数十分。
既に乗せられているアイスが溶けてしまうほどの時間は経過している。
その間、じっと黙ったままで。


「ごめんな、三蔵。俺、我儘過ぎた。帰ろうか」


とうとう一度も顔を上げないまま、三蔵は軽く頷いて。
そして、溜息をついた。


(溜息をつきたいのはこっちだ)


鞄を手にし、立ち上がる、と。
二の腕に痛みが走り、バランスを崩す。


「……なに」


一瞬だけ唇に触れた温もりは、自分の勘違いでなければ、目の前の彼から与えられた
もので。
それは、自分たちの曖昧な関係では、なかったはずのことで。


「お前、わかっていなかったのか」
「…何が」


返事と同時に、深い深い溜息。
掴まれた二の腕が痛い。


「お前の気持ちなんて、わかりきってるんだよ。そんな顔をするな」
「…三蔵」


涙が、零れる。
それ以上は何も言えなくて、ただ、抱き締められるまま、温もりに身を任せていた。


(好きだよ)


今まで言えなかった言葉を、何度も囁いて。



【Fin.】



39オンリーイベント用の特別SS(笑)
一緒にカラオケに行った皆様のリクエストを盛り込んでみました。
お持ち帰りは、その時一緒にいた方のみ、とさせて頂きます。



よろしければ、ご感想などいただけましたら幸いですv


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2009.06.07 Wrote
2009.06.13 UP



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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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