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それは誰に触れた唇ですか



気付いたのは、明け方のことだった。
朝日の気配と共に、そっと足を忍ばせて近づく気配。
そして、覚えのない香り。


「…何処で何をしていたんですか」


何処で、というのは多分正しくない。
誰と、というのが正しいのだろう。
自分にはとても似合わない、清涼な、主張する香り。


「起きて、たのか」
「目が覚めてしまっただけですよ」


枕元に置いていた片眼鏡を掛けると、ぼやけていた視界がはっきりする。
鮮やかな、紅の色。
体内を巡るそれと同じ色の。


「ちょっと、な」


苦笑しながら、煙草を咥える姿に、溜息が漏れてしまう。
あぁ、あれは何かを誤魔化す仕草。
話さなければいけないことがあるとわかっていて。
それでいて、決して話すまいと決意している瞳。
吐き出す煙と共に、時間もなにもかも、吐き出してしまう。


「僕はそんなにも、頼りないですか」
「…そうは言ってねぇよ」


一緒に暮らし始めてどれくらい経つだろう。
自分は彼にすべてをさらけ出しているのに。
彼はいつ、心を打ち明けてくれるのだろう。
どうして、。


(どうしてこんなに心が痛むのでしょうね)


「何でもねぇから、本当に」


笑みの形に歪められた唇に、目を奪われる。
その端に仄かに残る、薄い紅の色。


「…ゴミ、捨ててきてください」
「りょーかい」


珍しく行儀よく灰皿に吸殻を押し付け、出て行く姿を見送る。
そっと手を伸ばし、吸殻を手にする。
まだ温もりの残る、それに。


――それは誰に触れた唇ですか



【Fin.】


後書代わりの戯言

壮絶に久しぶりに書いた最遊記がこのような形で、本当になんというか、申し訳ない…。
浄←八…と言う感じかな。


お題はこちらから頂きました。


rewrite 様
http://lonelylion.nobody.jp/


宜しければ感想等頂ければ幸いです!

http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=shigukoi


2011/05/15 Wrote
2011/05/22 UP




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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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