視線の熱に気づいていた。
気づきながら、知らない振りをしていた。
無駄なことはしたくなかった。
彼が自分から離れていくことを、考えもしなかった。
ありえないことだと思い込んでいた。
「貴方は本当に...愚かですね」
漏れ聞こえた声に、思わず足を止めた。
八戒の、溜息まじりの声。
「仕方ねえだろ。想いなんてな、そんなもんだ」
「三蔵が知ったらどうするんですか」
「そん時はそん時だろう」
知らなかった。
彼が、そこまで深い想いを抱いていることを。
声の熱で気付かされた。
そこまで、なのかと。
けれど知ったところでどうすることもできない。
何かを出来るわけでもない。
ならば、知らない振りをするのが一番いい。
きっと。
「俺、三蔵のこと、ちゃんと好きだからな」
金色の瞳を輝かせて悟空が告げたのは、それから幾日も経たない、ある夕刻のことだった。
嘘も誤魔化しもない瞳。
相手にもそれを許さない瞳。
守りたかったものを思い出させる。
「手離すはずがない」
応えた言葉は外れていたかもしれない。
けれど紛れもない本心で。
伝わっているかはわからないけれど。
永遠に変わらないだろう、この想い。
目を逸らすことができないなら、せめて真正面から捕らえて。
逃げずに。
そうすれば、誓えるだろう?
ずっと傍にいてほしい、と。
【Fin.】
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2008/03/20 UP
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