見上げた先には月。
見下ろすところに金色の光。
手に入れたかったものはなんなのか。
手に入れてしまった後ではもう、わからない…。
些細なことだった。
ただ、悟空が、自分の名を呼んだだけ。
それだけだ。
ただそれに、たとえようもない感情が込み上げてきたのは何故だろうか。
「三蔵?どうかしたのか」
夕刻になってようやく帰ってきた奴は、そんなことを言う。
心配そうな顔で。
まるで、自分の身になにかがあったのではないかと思うような必死な表情で。
「別に。ずいぶん遅かったんだな」
告げると、悟空は不意に笑顔を見せた。
少しだけ、痛々しいような表情とともに。
「散歩してたら気持ちよくてさ、つい寝ちゃったんだ」
嘘をつくな、と言いたい衝動に駆られる。
なら、何故こんなにも暗い瞳を向けるのだと問い詰めたくて。
いつ頃からか。 悟空はこんな眼をして自分を見るようになった。
見たこともない真摯さをたたえて。
「三蔵?」
名を呼ばれることが耐えきれなくて、知らぬ間に体が動いていた。
温かな身体。
生きている。
震えていて。
それでも拒絶はしない、彼。
全てを受け入れてくれるような、そんな錯覚を抱かせる。
「三蔵、どうかしたのか…?」
柔らかい声を、胸の辺りで聞く。
「…別に」
言いながら、身体を引く。
らしくない行動に眩暈を憶える。
「そっか…」
呟かれた声が寂しげで、極力見ないようにする。
「いいよ。俺、三蔵になら何をされても。何をしてもいいよ」
息を呑む。
「馬鹿が…」
「へへ…」
窓の外を見ると、暗闇のなかに微かに残る紫紺の色に混じって、白く輝く月の姿があった。
それから、なにがあったというわけではない。
あの日から何気ない日々が続いている。
静かな祈りのように安らかな日。 どうかこのまま、壊れないようにと、願わずにはいられない…。
【Fin.】
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大分前に空無さまへ捧げた作品ですね
懐かしいです
懐かしすぎて涙が。。。(泣)
2008/03/20 再UP
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