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†unrequited love†



例えば
その微笑みが
自分に向けられたものではなくても



彼の姿は、ほぼ毎日店の中から見ていた。
大通りから少し外れたところにある喫茶店の中にいる自分。
いつも時計を気にして、駆け足で去っていく彼。
始めはただ、それだけの関係だった。



最初は、要領の悪い青年だと思った。
散乱した、赤の他人の荷物を、拾い集める姿に。
乗り物の中で椅子を譲る姿に。
メモを片手に道を案内する姿に。
困った顔をしながら、それでも断らない姿勢に。
優しいとは言わない。
ただ、世間知らずなのだろうと。
そんな風に思った。
荷物を拾う間に、乗るはずだったバスが行ってしまい、落胆する姿。
譲ろうとした相手に叱責される姿。
メモを持っているのは自分なのに、一緒に迷う姿。
そんな姿を何度も見たから。
そして、何度も手を貸したから。
いつしか忘れられなくなっていて。
たまに怪我をする彼の傷の手当てをして。
話をするうちに、名前を覚えて。
彼の内面を知るようになって。
心を、惹かれる前に奪われていた。
何かをしたいわけではない。
奪いたいわけではない。
ただ、自由で前を見詰める彼の視界に少しでも入りたかっただけ。
少しでも、その心に残りたかっただけ。


「お前は、またやったのか」


からん、と軽い鐘の音と共に姿を表した彼は、気まずそうに微苦笑を浮かべていた。
鞄を腕に抱え持ち、服の汚れを少しでも隠そうとしている。
そんなことは無駄なのに。


「だってさ、三蔵。子犬だったんだよ? 怪我してたら動けないじゃん」
「で?」
「…病院に連れてっただけだよ」


服が汚れているのは、子犬が暴れたからだと言う。
足に付いていた泥をそのままに抱えていたらしい。
溜息をつき、タオルとコーヒーを差し出す。


「サンキュ」


向けられる笑顔が欲しくて、親切な振りをしている。
少しでも彼がここにいてくれるようにと願いながら。
表面には少しも出さずに。


「明日は、」
「休みだろ? 知ってるよ。来ないから安心していーよ」


心が痛いなんて、気のせいだ。
屈託ない彼の笑顔に、傷つく理由は無い。


「でも毎日逢ってるから…淋しいな」


ほら、また。
期待をしてしまう。




【Fin.】



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18900hit 泉綺羅さんからのリクエストです。
妙なところで終わってますが、一応ほら、リクエストが【三蔵片想い】だったのでここまでで(笑)
私なりに幸せにしたい人No1の人であるのですが、
どうも…「その前に悩んでねv」という気分になるのは何故だろう…。
続きを希望される方は言ってくださいね♪
頑張って書かせて頂きます♪


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2008/03/20 再UP



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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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