ただ待つ、という行為。
相手に対する好意が伴わないと、苦痛を伴うのだと知ったのはいつからだったか。
彼が、自分を変えた。
「三蔵、ごめん!」
「おせぇよ」
彼が、花火大会に行きたいと言い出したのは昨日のことだった。
当然人ごみの中に行くことなど論外だった、が。
『どうしても見たいんだ…三蔵と』
そんな風に言われてしまったら断れまい。
時間通りに待ち合わせ場所へ現れた姿に、やはり快諾してよかったと改めて思う。
なんというか、嬉しそうに見えるのだ。
勿論傍に寄られるのが嫌だ、というわけではない。
彼と逢えるのならば、いつかは一緒に暮らしてもいいと思うほど、彼を好きでいる。
まだ学生である以上、そんなことは今すぐには無理だけれど。
「まだ早いな」
「喫茶店入ろう」
それを見越して、時間を早くしたのだ、と彼は告げる。
きっと三蔵は早く来るだろうから、と。
自分には無い、この素直さ。
羨ましくも、時折恨めしくも思う。
手を引かれるままについていく。
その先は、割合に有名な喫茶店だった。
「ここ、ケーキもうまいんだっ」
「涼みに来たんじゃなかったのか」
「へへ…」
微笑む姿も愛らしい。
ここが公衆の面前でなければ、このまま抱き締めたいほどだ。
何故彼は自分のような人間を好きだと言うのだろう。
お世辞にも優しいとは言えず、無愛想で、不器用で。
取り得と言えば顔と声だけだ、などと言う悪友もいるほどなのに。
『三蔵が俺を助けてくれたんだ』
だから、好きなのだと。
初めて逢ってから1ヵ月後に告げられて。
けれど、自分が彼を助けたなどということは覚えていなくて。
「三蔵?」
カラン、と目の前に置かれたアイスティーのグラスの氷が溶ける。
「大丈夫? 待たせすぎた?」
「…いや、大丈夫だ」
程よく冷たい飲み物で喉を潤す。
(心臓が、もたない)
彼と出逢って。
こうして、想い合うようになって。
どれだけ近くにいても。
どれだけ肌を触れ合っても足りなくて。
攫って、閉じ込めて。
自分以外の誰も、視界に入れないようにしてしまいたい。
(暑いから、か)
夏の暑さのせいにしてみる。
けれど、紛れも無く本心だと言うことも気付いている。
(いつまで誤魔化せるか)
けれどせめて、彼が自分から離れたいと想わない限り。
傍らにはいつも、自分が居たい。
(離れたいなんて言わせない)
何でもする。
例えば、誰かの命を奪ってと言われても。
きっと自分は、躊躇いも無く命を奪える。
自分には彼しか、いないから。
「あ、そろそろ行かないといい場所なくなっちゃう」
「あぁ」
外は熱帯。
心は嵐。
この手の先には、彼の温もり。
【Fin.】
後書
21500hit ゆあらさまからのリクです
リク内容は、【甘い三×空(悟空に甘過ぎる三蔵)】だったのですが。。。
甘い、というより怖い三蔵になってしまいました。。。ι
まぁ、こんな三蔵もアリってことで!
ゆあらさま、如何でしょうか??
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2008/03/20 再UP
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