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Promise



あの日、手を伸ばしたのは
誰かを救い上げたかったからじゃない
自分を呼ぶ声が煩かったわけでもない
ただ、自分が楽になりたかっただけ




広い広い砂漠に入って、どれほどの月日が経ったことだろう。
始めは、誰かと一緒に行動するだなんて。
旅をするだなんて、絶対にごめんだと思っていた、のに。


(あのバカ猿が)


置いていかれることに怯えを隠さなかった少年。
瞳に、強い光を放つようになったのは、いつからだったか。
白い雪の上に足跡を残してからか。
ずっと、額の封印が解けてからか。
あの長い髪を切ってからか。
あの二人と出逢ってからか。
少なくとも、寺院を出ることには、彼の、見える部分においては既に怯えは消えていた。
代わりに現れた光は、目障りで。
見たくも無いのに、見てしまう。
だから公務を増やして、できるだけ接しないようにしていた、のに。


(人の気も気付かねぇ奴が)


どうしてこんなにも、気になるのか。
全てのものから目を逸らして。
気付かない振りをして。
でも、気付くと、無意識に手を伸ばしてしまいそうになる。
そんなときは、決まって煙草のケースに手を伸ばすのだけれど。


「おい」
「どうしました、三蔵」


沈黙を破る声に、傍らの青年は驚いたようだった。
そうだろう。
常ならば、自分から話し掛けることは稀で。
けれど、いつも騒音の元になる二人は、今ここにはいない。


「あいつら置いてくぞ」
「まぁまぁ、もう少しだけ待ちましょう」


街を見つけたものの宿はなく、仕方がないので買出しだけすることに決めて、早数時間。
公正なる判断によって選ばれた二人は、まだ戻らない。
陽は傾き、月が昇っていた。
綺麗な、満月。


「お前は、何を考えている」


翠の目の青年が、紅い目の青年に対して、よからぬことを考えていることを知ったのは、ごく最近のことだった。
気づくと、片方の目で、じっと見つめているのだ。
熱を込めて。
何かを、伝えようとして。


「内緒です。勿論、悟浄にもですよ、三蔵」
「…知らん」


微笑みに、心を隠す。
これほどうまい人間もいないだろう。
自分は、表情を表さないことで、心を隠している。
それは、知られたくない現実があるからだ。
目の前の青年はそれを、知っている。


「悟空は、強いです」


心を見透かされたかと思いながら、煙草を口にくわえる。


「全てを受け止めるには、まだ幼いかもしれませんが、彼は、強いです」


この4人の中で一番。
誰よりも強く。
誰よりも広く。
誰よりも、恐ろしい存在。


(手遅れだ)


きっと最初から捕まっていた。
あの、金色の瞳に。
認めたくないと思う気持ちは、弱さだろうか。
それとも、強がりだろうか。


(俺は、アイツを手放す気は無い)


それだけが、真実で。
それ以上のことを願うには、まだ何かが足りなくて。
彼にも自分にも。


(まだ、だ)


面影を重ねるようなことはしない。
自分は、自分なりに、彼を想っている。
彼の、望まない形で。


(いつか、必ず)


強さを。
誰もが認める、そんなものを身に付けたなら。


(そうしたら、認めるだろう)


これは、約束。
誰も知らない。
自分だけの、約束…。



【Fin.】



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これは、夕姫さま16000hit記念に差し上げたきりリクです(日本語おかしい??)
リクエストは、旅の途中で、痛くて切ない片想い、三蔵視点だったのですが…
沿えているかどうかは、ご本人のみ知る…ι


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2008/03/20 再UP



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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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