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長い夢



窓の縁に頭を乗せて転寝をする姿を見つける。
寒くもなく、暑くもないこの時期、その位置が一番心地よいのは知っている。
知っているが、彼が占領しているのは自分がいつも執務をしている椅子なのだ。


「起きろ」
「んん…」


(仕事ができねえ…)


苛立たしげに溜息をついても、気付かない。
仕方がないので手に持っていた書類は机の上に放る。
椅子は使用中なので、机の上に座る。
一つ一つの動作にわざとらしいほどの物音を立てているのに、まだ起きない。
その平和そうな寝顔に、魔が、差した。
顔を寄せて、触れる、温もり。
気付かれない内に身を離す。


「悟空」
「ぅん……んぞう…?」
「起きやがれ。邪魔だ」
「…わかった…」


ようやく開いた瞳は、鮮やかな金。
手の甲で顔をこすりながら、夢か、と小さく囁く声。


「三蔵、夢の中なら優しいのに…」


ぼんやりと呟く言葉に、息を呑む。
蘇る、温もり。
気付かれていた筈はない。


「俺、三蔵好きだよ?」


絶句する。
素直な、ストレートな言葉。
幼さゆえの。
けれど、輝ける、もの。
飾らない心。
とうに手離してしまった、もの。


「同じように返して欲しいとまで思ってないんだ。でも、三蔵苦しそうだから」


この子供は何を言っているのだろう。
苦しそうに見える、と。
誰にも言われなかった言葉。
誰もわからなかった、言葉。
この子供は、子供ではないのかも、しれない。
好きだと告げて。
けれど、相手の心まではいらないと。
それのどこが子供だろう。


「俺、向こう行ってる」


去る姿を、追わない。
足が動かない。
呼び止めたいのか。
それとも突き放したいのか。
自分のことなのに、欠片も理解できない。
けれど、…。


「悟空」


投げかけた声に、言葉に、嘘はない。
いっそ認めてしまえば楽になるのだろうと想像がつく。
けれど、納得がいかない。
相反する心。
掴んだ腕の温もり。
柔らかな体。
現実のことなのに、まるで夢の中の出来事のようで。
実感が、わかない。
こんな行動をするのが、自分であるということ。
驚いて見開かれた金の瞳から、視線を逸らす。
なんと、言えば言いのだろう。
この、想い。


「大丈夫だよ。俺はここにいる」


その言葉が、一時凌ぎのものではないことを知っている。
知っていた。
彼が見つめる先は、いつも自分がいる。
彼の行動の全ては、自分に向けられる。
彼の言葉は、今の自分を支える糧なのだと。
とうに、知っていたのだ。


「ここに、いろ」


夢が、覚める。
瞬間、鮮やかな色が広がる。
白く金色の、光。
朝焼けの、色。



【Fin.】


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2008/03/20 再UP



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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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