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重ねてく世界



遠く輝く光
失った温もり
塗り潰された真紅
空が美しいことに気付かなかった愚かな日々


* * * * *


月の輝く夜中。
そんな時間に目が覚めたのは、傍らの温もりを失ったせいだと気付く。
ずっと独りでいることには慣れていたはずなのに。
微かに覚えたのは、不快感。
そして、有り得ない、喪失感。
そんなにも弱くない。
ただ、心が少しだけ痛む。

「あ、起きた」

囁く声に顔を向けると、窓を背に立つ、金色の光。
なんとなく見ていられなくて。
煙草に手を伸ばす振りをして、視線を逸らす。
小さな木の枝から生まれた小さな灯が、暗闇に光を作る。
眩しい光。
目に痛い。
心に突き刺さる。


「何を、している」


掠れた声が憎憎しい。
心が、暴かれてしまうのではないかと。
身構えてしまう。
心に鎧を。
それでも、彼は気付いているのか。
気付いていないのか。
ただ、優しく。
柔らかく。
微笑み、立つ。
姿はまるで、失った影を見ているようで。
自らが、本当は誰を望んでいるのか。


(風に、惑わされた)


ふわり、と宙に舞う茶色の長い髪の毛に、思わず手を伸ばしそうになって。
眩暈を覚えた。
まだ、早いと。
心のどこかで自制が入ったのだ。
けれど、微笑みに、狂わされた。


『花が綺麗だ』


たった一言で崩れた世界。
そして手に入れた存在。
彼は、赦してくれるだろうか。
ただ、欲しかったのだ。
彼の見ている世界が。
彼の在る世界が。
同じモノを見たくて。
同じように感じたくて。
けれど近づくことさえできなくて。
だから、手に入れたのだと。
告げれば彼は、どんな顔をするだろうか。
彼と重なる時間と世界が崩れてゆくのかもしれない。
けれどそれさえ彼のもたらすものならば。
それもきっと、自分にとってこの上ない幸福。


「悟空」


呼びかける、声。
返る微笑み。
それは、きっと、何よりも手に入れたかったもの。
煙草を灰皿に押し付け、手を差し伸べる。
上手く、笑えているだろうか。
触れる温もりに、同じだと囁けば、世界は重なるだろう。
異なる、遥か遠くに存在する筈だったモノを。
手繰り寄せたのは、誰だ…。


【Fin.】


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2008/03/20 再UP



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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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