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flower



痛みで悲鳴をあげる
声に耳を傾けなかった


* * * * * *


いつもと同じ一日のはずだった。
勝手に自分がはしゃいで。
三蔵には叱られて。
そんな、いつもと同じ一日のはずだった。
だが、他愛ない一言すべてを壊した。

「花が綺麗だ」

その一言で、今まで築き上げてきた平穏な日々のすべてが崩れるなど、一体誰が想像しただろう?
だが、それ以外に心当たりはないのだ。
そうでなければ、今の状況に説明がつかない。
窓の外には闇よりも暗い夜色。
そして浩々と輝く、真円の月。
部屋の中には灯りはなく。
ただ、白い肌と。
金色の細い輝きと。
深い、朝焼けの瞳と。
それをなぜ、こんなにも近くで見ているのだろう。
こんなにも、躰の奥に痛みを感じながら。

「…んぞ…?」

声も掠れてしまって、もうほとんどでない。
三蔵と。
呼んだ声が届かなかったことはないのに。
けれど、聞こえない振りをしているのだろう。
そんなにも痛々しい瞳で。
傷ついているのだと。
言葉なく告げて。

(おかしいな)

間違いなく痛みを感じているのは自分なのに。
どうしてこんなにも、…。

(守りたい…)

そんな感情が芽生えてくるのだろう…。

「さんぞ…」

何度呼んでも足りない。
どれだけ手を伸ばしても足りない。
届かない。
彼は今、孤独の中にいるから。
こんなにも近くにいるのに。
孤独の闇に囚われているから。

「…んで…」
「なんだ」
「…ん…ぁ……なんで…」

問いかけも言葉にならない。
痛みと、その奥にある何かが、邪魔をして。
言葉が生まれてこない。
けれど、意味は正確に伝わったようだった。
思いのほか哀しい瞳で。
じっと、見詰め合いながら。
吐息のように囁いたから。

「欲しいからだ」
「…ぇ…」
「お前が、欲しいからだ」

それ以外は何もないと、告げる強さ。
迷いのない。
強い瞳。
あぁ、これが、自分を捕えるのだ。
初めて出逢った時と同じ。
強い眼差し。

(それなら、いい)

気のせいとか。
ただ、いたからとか。
そんな理由じゃなくて。
本当に自分が欲しいと思ってくれて。
その上での痛みならば。
後悔することはない。
拒絶することさえ思いつかない。

(だって三蔵だし)

もうどこか狂っているのかもしれないけれど。

(なんでも赦せてしまう)

だって彼は、自分のすべて。
救い。
光。
どんなに尊く輝くものさえ叶わない。
たったひとつの、存在。
きっと彼が野に咲く花であっても。
自分は綺麗だと言い続けるだろう。
それは、確信。
そして、幸せな未来の姿。


【Fin.】


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2008/03/20 再UP



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7-mori eyelid (©) Midori Yuki
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