Index  Menu  Main  Novel(SAIYUKI)  Novel(WJ/GAME)  Novel(etc) 

卒業式



―行かないで、お願い。
 私をおいて行かないで―。



『瑛!!!』



私はまだ、泣いている。



       ※※※※※※※※※※※※



(・・・あぁ、まただ。また”この夢”だ。)


原因が何かは、分かってる。
もうひと月は見続けているであろう、”夢”のせい。
痛くて苦しいあの日の、夢。


(・・・もう、忘れたいのに。)




「忘れてくれ。珊瑚礁のことも、俺のことも。」


それはあまりに突然だった。
そしてあまりにも身勝手な、”拒絶”の言葉だった。



「さよなら」



その一言を私に残して、遠く遠ざかってゆく瑛の背中。
何度その名を呼んでも、瑛が振り返ることは無かった。




       ※※※※※※※※※※※※



『あれからもう1ヶ月か・・・早いなぁ。』


まだ少し、涙で濡れた目をこすりながら、カレンダーを見る。
○印で囲まれた日付。今日は、高校の卒業式だ。


『今日で高校卒業・・・か。』


この制服を着るのも、最後。
結構気に入ってたのにな・・・とボンヤリ考えてみる。
でも、思考はすぐに同じ所に戻されてしまう。


(早く瑛からも卒業、しなきゃ。)



高校生活の3年間という月日は、長いようで短かった気がする。


めまぐるしく過ぎてゆく日々の中、振り向けばいつも傍らには瑛がいた。
時には憎まれ口をたたきながら。時にはやさしく微笑みながら。
どんなに時が流れても、瑛の存在はこれからも変わることなく
自分のそばにあり続けるのだと、信じて疑わなかった。


でも、それは自分だけが勝手に描いていた「未来図」で。
瑛には瑛の「未来図」があり、その中に自分の存在はなかった。
だって現に瑛は、もう自分の隣にはいない。



あの日、一人残された海岸で、瑛を想って泣いた。
次の日も泣いた。その次の日も、そのまた次の日も。
泣いて泣いて泣き続けた先で、自分ひとりが舞い上がっていたんだと、思い知った。
そして、少しずつではあったけれど、「諦める」事で塞がる傷もあるのだと知った。



これ以上、いなくなった相手に振り回されるのはたくさんだった。


大学生になれば、色々な意味できっと忙しくなる。
こうして想いを馳せている時間もないくらいに。



(それに瑛もきっと、新しい生活を始めているだろうし、
・・・もしかしたら、もう可愛い彼女だっているかもしれない。)



そんなことを考えたら、ひいたはずの涙がまたあふれ出しそうになったけど。
それすら思い出にすることが出来たら、忘れることが出来たら、
いつかはこの胸の痛みも、癒える日が来る気がする。
その為には、自分自身の力で、一歩を踏み出さなければいけないのだ。


(あの灯台で”卒業式”をしよう。それで全て、終わりにしよう。)


それは、瑛への”さよなら”と、私の”新たな一歩”のための儀式。


3年間を一緒に過ごした学校。
毎日のように歩いた通学路。
寄り道して、たくさん話した海岸。
幼い瑛と出会った、海辺に建つ灯台


その全てが瑛との思い出で、
その全てが大事な宝物。


だから”さよなら”をするんだ。
瑛から”卒業”するために。


そして”新たな一歩”を踏み出そう。
瑛がいなくても、生きていけるように。




-おしまい-


2008/09/19  雨
2008/09/21 加筆修正 雨




後書&感想


こちらも、雨さんから頂きました!
もう、私ってば、超幸せ者…v
雨さん、本当にありがとうございます!!!


----


2009/01/01 UP



Back
7-mori eyelid (©) Midori Yuki
inserted by FC2 system