「あぁっ、もう!完全に遅刻だ!!」
乱れた髪を整えながら、時計を見て叫ぶ。
時計はもうすぐ待ち合わせの時刻を指そうとしている。
馴れない大学での新生活で、ここのところすれ違ってばかりだった。
だから今日は、久々に二人で繁華街あたりをうろついて、
珊瑚礁のもう半分―つまりは俺の部屋で、ゆっくり話でもしようかと考えていたのに。
会えると分かって柄にもなく浮かれていたのだろうか。
昨夜はなかなか寝付けなかった。それが仇となり、結局寝坊・・・。
(何やってんだ俺・・・かっこ悪い・・・。)
身支度を整え、弾かれる様に玄関を飛び出した。
駅までの道のりは、走っても15分はかかる。
(楽しみで眠れないとか・・・ガキじゃあるまいし。)
もう何度目か分からないため息をはきながら、海岸沿いの道を駆け抜ける。
ふと横目に映る防波堤。
途端にスイッチが入ったかのように流れ出てくる、あの日の記憶。
――――
まだ寒さが厳しい、卒業間近の1月最後の土曜日。
午前中で学校が終わると、そのまま俺はあいつを防波堤まで呼び出した。
いつからだったろうか。
あいつの目を素直に見つめ返せなくなったのは。
あいつの笑った顔を見るたびに、変な罪悪感で胸が軋んだ。
くだらないプライドのために、嘘をつき続ける俺を見透かされてしまいそうで。
それがひどく恐かった。
情けない姿を見られたくないと、忘れて欲しい、と叫んだ。
まるで、思い通りに行かなくて泣き喚く子供の様に。
独りよがりのわがままを言い続ける俺に、
あいつは目に涙を溜めながら歯向かった。
今にも泣き出しそうなのを必死に抑えて、それでもまっすぐ、逸らすことなく俺を見つめてくるその目に、これ以上映り込むことが耐えられなかった。
そうして俺は、あいつから逃げるように、この街を去った。
「そんなこと…、出来るわけ無かったのにな。」
逃げたところで、あいつへの気持ちを閉じ込めることは出来なくて、
ただ毎日毎日が苦しかった。そしてそれは日が経つ毎に、痛みを増した。
鮮明になる一つ一つの思い出たちに、心の中でのた打ち回った。
自分にとって何が一番大切なのか。
離れてみなければ分からないなんて・・・なんて神様は意地悪なんだろう。
俺にとって、珊瑚礁より、プライドより、何より大事なのはあいつの存在そのものだったのだから。
――――
「・・・ぅわ!ヤバイ!!!」
うっかり物思いに耽ってしまった頭を現実に戻し、時計を見る。
大して時間は経っていなかったが、30分の遅刻は決定だ。
きっとあいつのことだ、ぶすくれた顔で待っているんだろう。
(・・・やべ、想像したら笑える。)
チョップのひとつでも飛んでくるんだろうな
(・・・絶っっ対避けるけど。)
それに、あいつはどこか抜けてるから、ちょっと目を離すと、
すぐキャッチやらナンパ野郎やらに声を掛けられる。
・・・あ、なんかムカついてきた。
(心配だ・・・・早く行こ。)
そう思うと、自然と足も速くなるから不思議なもんだ。
さっき「駅前の喫茶店で待ってる」とメールが届いていた。
遅れたお詫びに、お茶代くらいは出してやろう。
(はやく会いたい。)
駅までの道はあとわずか、俺はスピードを上げて走った。
-おしまい-
2008/09/11 雨
2008/12/07 加筆修正&改行変更 雨
後書&感想
雨さんから頂きました!
なんと、雨さん、この作品がほぼ処女作!!
普段から雨さんの文章が好きだったので
相当ごねて、書いてもらったものです(笑)
ちなみに、【sweet coffee】の瑛Ver.として書いてもらったものですv
----
2009/01/01 UP
Back