誰もいない夜のオフィスで。
キーボードの音だけがリズミカルに響く。
報告書は書き終わっていたけれど、なんとなく帰り難くて。
手首の、青い石を見つめる。
「先輩って器用ですよね」
「ん? まぁな、と。…ほらよ、やっぱりだ。見ろよ、」
「出たんですか?」
待っていたのは、この言葉。
先輩が今見ているのは、この間回収した資料の中にあった、データのひとつ。
いわゆる顧客データが入っているのだけれど、先輩も私も、これがただの顧客データではないと思っていた。
「ここ、見てみろよ。この半年だけでこれだけの発注は珍しいぞ、と。まるで…」
「まるで、軍のように、ですか」
顧客項目『RAF』と書かれた項目には、銃器だけではなく、ごく普通に思えるような工具も記載されていた。
けれど、その数も発注の頻度も尋常ではなかった。
「ツォンさんに報告してきます」
「あぁ、そうしてくれ、と」
印刷された一覧を手渡される。
そっと、触れる、指先。
(…あ)
何が起こったかわからないうちに、抱き締められていた。
鼓動が、早い。
知られてしまう。
「せ、先輩。ふざけるのもいい加減にしてくださいっ」
「」
低い声が、耳元で名前を囁く。
それだけで、体から力が抜けてしまう。
「ふざけていると思うのか、と」
密着する体。
離れたくても離れられない。
(どうしたらいいんだろう)
寄せられる顔と、唇に触れた温もり。
二度目の、口付け。
「…っ」
「」
何度も呼ばれる名前と。
その合間に降り注ぐ、口付け。
気が遠くなりそうで。
流されてしまいそうになる。
『――とうとう本命を決めた、という話よ』
蘇る、密やかな声。
心の痛みが蘇る。
夢中で身を捩り、先輩から距離を置く。
「…もう、やめてくださいっ」
「?」
「なんで、こんなこと…」
涙が零れる。
耐えられなくて、そのまま扉に手をかけ、外へ出る。
心が痛いのに。
なのに、温もりが嬉しくて。
単なる暇潰しだとしても。
先輩が、触れてくれたと言う事実が嬉しくて。
(どうかしてる)
こんなにも、心を侵されている。
【Fin.】
後書
ちょっと難産でしたねぇ。。。
ペースが落ちたかな。。。ι
組織ネタは続けようと思っていたものです
名前の由来はネタばれになるので言えませんが
察しのいい人は気付くでしょう(笑)
ゲームとも絡めていきたいのですが
現在進めている真っ最中なのでどうなるかは不明です(笑。。。えない)
えっと、レノさん、我慢できなかったんだね
でもね、そうすると、余計に逃げてしまうよ。。。?(苦笑)
よろしければ、ご感想などいただけましたら幸いですv
web clap
2007/05/17 Wrote
2009/01/01 UP
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