貴方がいれば、なにもいらないなんて、言うつもりはない。
私の人生は私だけのもの。
ただ、貴方を好きでいる心。
それだけは、赦してほしい。
『』
あの声で、自分の名前を呼ばれる時は、任務のときだけで。
他に、あの声を聴いたことがない。
独特の、掠れた声。
甘い言葉を囁くときは、どんなトーンなのだろう。
(馬鹿馬鹿しい)
気にしたところで、彼がその声で自分を呼ぶことはないのに。
「おい、。行くぞ、と」
「はい、レノ先輩」
肩から提げたホルスターの銃を確認する。
足首には小さなナイフを。
胸ポケットには、携帯を。
準備は万端。
「お待たせしました」
「ん」
大丈夫。
私は、まだ大丈夫。
心がどれだけ壊れても。
貴方がすきだと悲鳴を上げても。
貴方にそれを知られているのだとしても。
表に出すようなことは、しない。
(だって、先輩は嫌いだから)
面倒くさい、と一言だけ告げて。
その言葉で去っていく女性を何度か見たことがある。
皆一様に涙で瞳を濡らし、そして私を睨んでいった。
親の、仇を見るように。
「あら、レノ」
「よぉ、久し振りだな、と」
「相変わらずね。最近ご無沙汰のようだけれど、今夜来る?」
「そうだなぁ…」
知っている。
以前、先輩に連れられて行った店の、主人。
これだけ綺麗なのに。
これだけ男の視線を浴びているのに。
少しも媚びていない、うつくしい人。
常に血を浴びている自分とは、大違いだ。
「先輩、先に行っていますね」
「お、おう」
少し気まずい様子の先輩。
その腕に手をかけ、微笑みを絶やさない人にも会釈をして、その場を離れる。
別に、たいしたことではない。
先輩は、先輩で。
それ以上でも以下でもない。
だから、大丈夫。
「、さん?」
「…っ!」
振り返ると、そこには、先輩と話していた筈の、うつくしい人、が。
「ごめんなさいね。何か誤解したかしら」
「いえ、そんな」
その微笑みは本当に優しくて柔らかくて。
前髪をかきあげる左手には綺麗な光が灯っていた。
(…ひだりての、くすりゆび)
「そういうことよ。貴女は心配しなくていいの。レノはね、店の常連。それだけよ」
ほんのりと、心が溶けていく。
そんな些細なことに。
そんな言葉に癒されてしまうほどに。
自分の心が、傷ついていることに気付いて。
「…言っておくけど、私が泣かせたわけじゃないわよ」
「知ってるぞ、と」
「……先輩…」
止まらない涙。
見られてしまった、心。
「大丈夫か、と」
「はい、すみません…」
もう少しだけ、この位置にいさせてほしい。
貴女がいつか、他の誰かと共に人生を歩むとしても。
その傍に私がいなくても。
【Fin.】
後書
まぁ、ありがちな台詞をだしてしまいましたよ(苦笑)
たぶん、レノは気付いています。
気付いていても何もしないのは、何故でしょうね(笑)
こういう人はずるいと思います
暫く主人公の受難は続きます。。。
よろしければ、ご感想などいただけましたら幸いですv
web clap
2007/04/30 Wrote
2009/01/01 UP
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