この想いは、イレギュラー。
初めから、生まれてはいけなかったモノ。
タークスに配属されてちょうど3ヶ月。
任務も徐々に単独のものが増え、それに比例して報告書を書く量も増えた頃。
誰もいない事務所の中で、ひとり、キーボードを叩く音だけが響く、深夜。
軽いノックの音と共に開いた扉から、赤い髪の毛が見えた。
「、ちょっといいか、と」
「はい」
顔だけ出して、また、引っ込んでしまった。
本当は、報告書も途中だし、机の上は資料だらけで。
どうしても気になる性分だから、席を離れたくなかったのだけれど。
あの人が、呼んだから。
立ち上がって、少しだけ駆け足で、扉に向かう。
「どうしました?」
「いや、頼みがあってな、と」
「先輩が、私にですか?」
(どうしよう…嬉しい)
心の底から嬉しいけれど。
当然嬉しい気持ちは出してはいけなくて。
何気ない風を装って、先輩をたてて。
「いいんですか、私で」
「いや、でなきゃいけないんだぞ、と」
「私でなければ、ならないんですか?」
眉間に皺が寄るのがわかる。
まだ新人の自分に出来ることなどそれほど多くはない。
雑用と言われる業務も一通りこなすことはできるけれど。
(先輩が言っているのは多分違うんだろうな)
「なんです?」
「これ、付けててくれ」
言われて差し出されたのは、細いシルバーのブレスレット。
よく見ると小さな穴が幾つも空いていて、レベルの低いマテリアを入れられることがわかる。
そのうちひとつの穴には、薄いブルーの綺麗なマテリアが埋め込まれていて。
(違う、これ、マテリアじゃない。模倣貴石だ)
「先輩、これ…っ」
「しっ」
『俺様改造の発信機』
耳元で囁かれた声に、鼓動が跳ねる。
そっと視線を外し、ブレスレットを身に着ける。
けれど、近い距離に緊張して、手が震えて。
「なーに怯えてんだ。冗談だぞ、と。」
「レノ先輩っ」
「はいはい、と」
あ、と言う間にブレスレットは彼の手に。
そして、左手に、軽い金属の感触。
「…慣れてますね」
「――おま…っ」
「嘘ですよ。ありがとうございます。」
にっこりと微笑む、つもりで。
(うまく、笑えているだろうか)
ここは、タークスで。
私は彼の後輩で。
震える手は、神羅を護る為に。
この足は、敵を狩る為に。
そして、瞳は、。
(…先輩、これは、反則です)
瞳は、貴方を映す為に。
その時、ずっと俯いていた私には、先輩が何処を見ているかなんてわからなくて。
、と呼ばれた声に顔を上げる、と。
「……っ」
赤が、視界いっぱいに広がって。
宝石色の瞳が私を見つめていて。
ささやかな重さしか感じられないはずの腕は、痛く。
唇には、温もりが。
「な、なにを、するんですかっ」
「べつに。あんまりが可愛いから、ついな、と」
「つい…って」
同じにされた。
あの、女の人たちと。
初めての温もりは、冷たく。
ただ、私の心に深い傷を残した。
【Fin.】
後書
えっと、少しだけ進展しました、よね。
してますよねっ?
異性と接する時には、距離が必要、というお話。
そういうところも、【Irregular】なんです(笑)
…あぁ、楽しかったvvv
よろしければ、ご感想などいただけましたら幸いですv
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2007/05/02 Wrote
2009/01/01 UP
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